特区民泊制度に揺れる今、「名義変更できるか?」という相談が急増中

2025年秋。
特区民泊制度をめぐる空気は、確実に変わり始めている。
「新規受付がまもなく停止される」
そんな噂は、もはや業界関係者の中では“前提”になりつつあり、不動産オーナーや投資家たちはそわそわとした危機感を強めている。
その中で、私たちが日々受けている相談の中で急増しているのが、こんな質問だ。
「特区民泊って、名義変更できるんですか?」
聞けば、理由はさまざまだ。
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法人を変更して運営したい
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売却予定だけど、次の買主にそのまま引き継ぎたい
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代行会社を変更するから、名義を移したい
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個人名義から法人名義に変えて節税したい
どれも実務的には納得できるニーズだ。
だが、ここには制度上の厳格なルールと、現場の“慣習的な対応”の間にある、大きなギャップが存在している。
制度上、「名義変更」は原則できない
結論から言えば、特区民泊の認定における“名義変更”は、制度上できない。
これは非常に重要なポイントだ。
旅館業や住宅宿泊事業法と違い、特区民泊(国家戦略特別区域法に基づく制度)は、「物件」に対してではなく**「運営主体者(=申請者)」に対して認定が下りる仕組み**になっている。
つまり、運営者が変われば、新しい認定を取り直すのが原則だ。
たとえば、A社が特区民泊の認定を取得した物件をB社が買い取り、「そのまま営業を継続したい」と考えた場合、B社自身が改めて認定を取り直さなければならない。
「名義を変えるだけ」という発想は通用しないのが、制度の建前である。
ではなぜ「名義変更できた」と語られる事例があるのか?
ところが、業界の現場ではこうした声が後を絶たない。
「え?うち、名義変更できたけど?」
「知り合いが買った物件、特区民泊そのまま引き継いでたよ」
一見、制度と矛盾しているように思えるこれらの事例。
実はその多くが、“制度の裏側をすり抜けた形”で成立している。
つまり、表向きには「名義変更」と言われているが、実際には別の手段で“それらしく”引き継いでいるケースがほとんどなのだ。
現場で使われている“抜け道”的なパターンとは?
いくつかの代表的な手法を紹介しよう。
【パターン①】法人の“中身”だけを入れ替える
たとえば、特区民泊の認定を持つ法人を丸ごと売買し、役員構成や株主を入れ替えることで、実質的には新オーナーが運営する形にするパターン。
これは合法であるものの、法人売買契約にまつわるリスクや債務保証問題、行政報告の内容変更など、慎重な対応が求められる。
本質的には「物件の名義変更」ではなく、「法人そのものを引き継いだ」というビジネス取引である。
【パターン②】認定はそのままで、運営だけ別会社に委託
これも多い。
認定自体は元の法人(または個人)が持ち続け、実際のオペレーションを他社に全面的に委託するスタイルだ。
つまり「名義は変えずに、実質だけ交代」。
一見、スマートに思えるが注意点は多い。
実態と名義が食い違っているため、行政の定期チェックや報告義務違反に該当するリスクがある。
とくに、認定者が運営責任を果たしていないと判断されれば、認定取消や行政指導の対象になる。
【パターン③】再申請を同時並行で進める
物件売却と同時に、新しい運営者が改めて特区民泊の認定申請を出し、営業に“切れ目がないよう”スケジュールを調整する方法。
最も王道で安全なやり方だが、再認定までに数週間〜数ヶ月かかるケースがあり、空白期間が出るリスクも。
行政との綿密な調整や、物件仕様の再確認(消防設備など)が必要なため、実務難易度は高めだ。
実は「名義変更したい」わけではない?
ここで重要な視点がひとつある。
多くのオーナーが「名義変更できますか?」と聞いてくる背景には、**“名義”そのものへの関心というよりも、**次のような本質的ニーズがあるのだ。
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今の物件を、合法的かつ継続的に運営できる状態にしたい
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特区民泊制度が止まる前に、使える認定を最大限活かしたい
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撤退しそうな代行会社から、安心できる運営体制に変えたい
つまり、「名義変更」は手段に過ぎず、本当の目的は“今ある認定をどう守るか”というリスクヘッジと体制づくりである。
制度が変わる前に、“認定の整理”をプロと一緒に考えるべき
特区民泊の制度が見直され、新規受付が完全に止まる可能性がある今、「すでに取得している認定」は大きな資産になっている。
これをどう活用し、どう守り、どう次のフェーズにつなげていくか──。
この視点が、今後の民泊経営にとって非常に重要になる。
特に以下のようなケースでは、プロの視点での再整理が不可欠だ。
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名義を変えたいが、どうすれば合法的に進められるかわからない
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物件を売却する予定だが、認定を生かしたまま買主に渡したい
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今の代行会社が撤退するという噂があり、乗り換えを検討している
まとめ:「名義変更できるか?」よりも、「どう守り、活かすか?」
特区民泊の認定は、原則として名義変更不可。
その上で、現場ではさまざまな“技術的な工夫”によって引き継ぎが行われている。
しかし、制度の揺れ動くこのタイミングだからこそ、問うべきは
この認定を、どう守る?
この物件を、どう未来につなげる?
という戦略的な問いだ。
不動産は「持って終わり」ではない。
民泊経営は、制度と現場をどう両立させるかという“バランスのゲーム”である。
認定の活かし方に迷ったら、名義変更の可否にとらわれず、全体の戦略から見直すことをおすすめしたい。
制度が止まる前に、未来を守るための一手を、今打ちましょう。