Columnsコラム

顧客はまだ“人の声”を求めている──AI時代のサポート再考

目次

    はじめに:AIが「便利」であるはずなのに

    近年、企業の電話窓口におけるAIオペレーション(自動音声ガイダンス、音声認識型IVRなど)の導入が急速に進んでいる。

    一見すると、AIによって効率化され、ヒューマンリソースも削減される画期的な進歩だ。しかし実際にユーザーとして電話をかけてみると、多くの場合に感じるのは**「便利さ」ではなく「疲労感」と「苛立ち」**ではないだろうか。

    特に宿泊業界では、その傾向が顕著である。チェックイン前のトラブル、深夜の鍵の問題、清掃ミスへの問い合わせなど、「今すぐに繋がってほしい」場面でこそ、AIオペレーションの限界が露呈している

    第1章:電話AIが抱える、根深い“3つの問題”

    ●① 音声ガイダンスが長すぎる・分かりづらい

    「〇〇の方は1を、△△の方は2を…」といった選択肢が延々と続く音声ガイダンス。中には5~6回の選択を経てやっとオペレーターに繋がるケースもある。

    宿泊施設に電話をかけるユーザーは、多くが“今すぐ解決したい緊急性の高い用件”を持っている。例えば:

    • 「鍵の場所が分からない」

    • 「水が出ない」

    • 「隣の部屋がうるさい」

    • 「予約内容が違っている」

    このような状況下で、長い音声案内を聞かされ、挙げ句に「この件はメールでお願いします」とガイダンス終了、電話が切れる――これほどストレスフルな体験はない。

    ●② 緊急性をAIが“理解しない”

    AIガイダンスの最大の問題は、「緊急性」「文脈」「感情」を理解しないことにある。

    たとえば「今、外にいて入れない」という宿泊者の電話があったとする。音声ガイダンスはその文脈を理解せず、ルーティン通りのメニューを提示。ユーザーは緊迫した状況で、たらい回しにされる。

    この“冷たさ”こそが、AIオペレーションの最大の欠点であり、人間の対応とは決定的に異なる点である。

    ●③ 「電話したのに繋がらない」という不信感

    特に最近多く見られるのが、「選択肢によっては、電話そのものが強制終了される」ケース。例えば:

    「この件は、メールまたはチャットでの対応となります。お手数ですが、Webサイトをご覧ください。ピーッ(終了)」

    この瞬間、顧客の期待と信頼は完全に失われる。

    「電話対応を望む人に、電話を切る」──これでは本末転倒だ。

    第2章:宿泊施設が“おもてなし”を失い始めている

    ホテルや民泊など、宿泊業界は本来「おもてなし」を売りにしてきた業界である。

    ところが昨今、人手不足と経費削減の影響で、電話窓口すらAI任せになってしまっているケースが急増している。

    その結果:

    • 「トラブル時に人と話せない」

    • 「日本語が通じない(外国拠点+AIの組み合わせ)」

    • 「ホテルとは思えない冷たい対応」

    といった不満が宿泊レビューにも如実に現れている。

    → 実際、レビュー評価を左右するのは宿泊体験だけではなく、トラブル時の対応力である。

    特にインバウンド・国内観光客の増加により、緊急時の電話の重要性は増しているにもかかわらず、それに見合う人員体制・サポート品質が追いついていないのが現実だ。

    第3章:なぜ企業はAI電話に頼るのか?(企業側の論理)

    もちろん、企業がAI電話に頼る理由も明白である。

    ●人手不足

    日本国内では深刻な人材難が続いており、夜間対応・多言語対応のスタッフ確保は難易度が高い。

    ●コスト削減

    24時間体制のコールセンターを人力で運営するには莫大なコストがかかる。AIはその代替手段として導入されやすい。

    ●FAQの自動化

    「よくある質問」に関しては、AIが答えた方が効率的という考えもある。

    → しかし、これらの論理は“効率”を最優先にした視点であり、顧客の心情や安心感を軽視しているとも言える。

    第4章:改善策──「AIでも冷たくしない」ための5つの提言

    ●1. “緊急対応レーン”を別枠で設ける

    音声ガイダンスの中に「今すぐのご用件の方はこちら」など、緊急性を優先するフローを設定し、最短で人に繋がるルートを用意する。

    ●2. ガイダンス時間の短縮とシンプル化

    選択肢は3つ以内にとどめ、長い説明は避ける。とにかく「早く話せる」ことが優先されるべき。

    ●3. 時間帯による切り替え運用

    深夜帯などオペレーターが少ない時間でも、「一定時間待てば必ず人が出る」選択肢を残す。待ち時間は長くてもいいが、「繋がらない」という選択肢は消す。

    ●4. AIでも“人間らしい会話”のトレーニングを

    感情分析や自然言語処理を活用し、「困っている」「怒っている」といった感情に反応し、適切なトーンで案内する音声ガイド設計を導入。

    ●5. 「電話したのにメール案内される」ケースの削減

    すべてを電話で解決できなくても、最低限“聞く”ことはすべき。たとえ最後はメール対応になるとしても、「電話を切る前に一度受け止める」ことで、顧客は納得する。

    結び:AI時代でも求められる「人間的な安心感」

    自動音声、チャットボット、AI電話――便利なツールは増えた。だが、ユーザーが最後に求めているのは、「話が通じた」「ちゃんと聞いてもらえた」という人間的な安心感である。

    宿泊施設やサービス業にとって、“困ったときにすぐに人が対応してくれる”ことは、今や最大の差別化ポイントとなる。

    「電話に出ない宿」は、「おもてなしをしない宿」として、顧客の信頼を失っていく。

    AI時代の今だからこそ、企業はこう問い直すべきだ。

    “あなたのサポートは、本当に人の心に寄り添えているか?”