民泊の“選別時代”へ──大阪市の制度改正が突きつける「費用対効果の崩壊」と運営淘汰の現実

■ 2025年秋、民泊のビジネスモデルが揺れている
2025年9月現在、大阪市の民泊業界に大きな地殻変動が起きている。
今年初めに報道された「特区民泊の新規受付停止方針」は既成事実となり、制度自体の見直しに向けた国との協議も本格化。加えて、以下のような動きが次々と進んでいる。
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不適切運営事業者への認可取消・行政処分
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「実地管理体制」の厳格化を要件に含める制度草案
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地域との連携実績を評価基準に加える動き
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新規受付停止だけでなく、更新制の厳格化や条件変更も視野に
これらの流れの中で、特に大阪に拠点を持たない運営会社や、**大阪市内での物件数が少ない運営会社(数戸〜十数戸程度)**にとっては、致命的な打撃となる状況が生まれている。
コストは増え、売上は読めない──割に合わない民泊事業へ
新たな制度下では、事業者に求められる運営体制のハードルが格段に上がる。たとえば:
◆ 新制度で求められる可能性が高い要件
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現地管理責任者の設置
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苦情対応の即応記録の提出義務
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管理拠点の所在地が大阪市内であること
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地域住民への定期説明やコミュニケーション履歴の提出
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複数施設をまとめて巡回管理できる人員体制の証明
これらの要件を満たすには、当然ながら人件費・交通費・外注費・記録管理費などのコストが大きく膨らむ。
また、ボリュームの少ない事業者ほど、1戸あたりにかかる管理コストの比率が高くなり、「薄利・高負担」の構造に陥りやすい。
さらに、特区民泊の将来に不透明感が広がる中、宿泊客の安定的な流入も読みにくい。インバウンド需要が旺盛とはいえ、ライバル施設も増えているため、価格競争は激化している。
結果として、こうした事業者は**「これ以上投資を続ける意義が見いだせない」**という状況に追い込まれつつある。
■ 小規模運営者は撤退を検討、M&Aや売却も「詰んでいる」可能性
現実問題として、2025年夏以降、大阪市内の民泊物件オーナーや小規模事業者の間では、以下のような動きが加速している:
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施設売却やM&Aの問い合わせ急増
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管理代行業者が大阪案件の受託を見送る傾向
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稼働率の低下・手数料増により収支が赤字化
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「更新を機に撤退したい」というオーナーからの相談
しかし、ここで見落としてはならないのが、「M&Aで運営会社が変わる場合、特区民泊の許可は新たに取り直さなければならない」という制度上のハードルだ。
つまり、いくら優良な買い手が現れたとしても、現行制度では“事業譲渡=新規申請”とみなされるため、2025年現在の「新規受付停止」措置のもとでは、新たな運営者が許可を取得できない可能性が非常に高い。
これは事実上、**「売ることもできず、続けるのも困難」という“事業凍結状態”**を意味する。
オーナーや投資家にとっては、撤退の選択肢さえも奪われかねない構造が生まれており、「市場原理に基づいた自然な退出すら困難」という、非常に厳しい局面が訪れているのだ。
本社が大阪にないだけで“不利”になる理不尽
大阪市の制度見直しにおいて、特に議論を呼んでいるのが、「地元拠点の有無による評価差」である。
たとえば、東京本社で全国展開している運営会社や、福岡や海外に本拠を置く大手民泊運営企業が、「大阪での現地対応が不十分」と判断されてペナルティを受ける可能性がある。
これにより、どれだけ適正に運営していたとしても、「物理的な距離」が不利に働く状況が生まれている。
実際には、高度なITを活用して遠隔でもトラブル対応・清掃管理・チェックイン対応を完璧に行っている企業も存在する。
にもかかわらず、制度が“地元偏重”に傾けば、それらの努力が正当に評価されない構造になってしまう恐れがある。
行き過ぎた“地元優遇”が市場を縮小させる
制度改正によって「粗悪な民泊」を排除することはもちろん重要である。だが、同時に以下のような懸念も生まれている。
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良質な遠隔事業者まで撤退してしまう
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民泊の供給戸数が大幅に減る
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訪日観光客の受け入れ能力に限界が出る
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宿泊価格の高騰、選択肢の減少
特に2025年現在、関西圏の観光需要は高水準にある。インバウンドも復調し、万博に向けてさらなる集客が見込まれる中、供給側の自己規制・撤退が続けば、観光都市としての競争力が損なわれる可能性もある。
民泊制度の「質の向上」は重要だが、“質の担保=数の減少”という状態になっては本末転倒だ。
結び:制度が変わる今こそ、事業者の選別と再構築を
制度改正は避けられない。
しかし、その変更がもたらすコスト構造の変化、運営体制の再構築、撤退判断の連鎖に、行政や国は十分に目を向ける必要がある。
そして、今後も民泊業界に残る覚悟がある事業者は、以下のような自問が必要になるだろう:
◆ 大阪に本当にリソースを割けるか?
◆ コストが増えても、収支バランスが維持できるか?
◆ 「拠点主義」の制度に順応できる体制があるか?
◆ それでも、この街で宿をやる価値があるか?
制度が変わるとき、それに適応できない事業者は淘汰される。だが同時に、適応できる事業者にとっては、信頼を勝ち取るチャンスでもある。
大阪市が求める「信頼される民泊運営者」とは何か――
その答えを明確にできた企業・個人だけが、これからの大阪で民泊を続けることができるだろう。
