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窓口と現場の“ズレ劇場”──社長の笑顔と現場スタッフの悲鳴、民泊代行でよくある物語

目次

    「代行会社、すごく評判いいし、社長もメディアに出てるから安心だと思ったんです」——

    こんなセリフ、最近民泊オーナーから何度も聞きました。でも、その「安心」の裏で、現場スタッフがどれだけ疲弊し、オーナーがどれだけ損をしているか、知られていないことが多い。今日はその“ズレ劇場”を面白おかしく、でもリアルに覗いてみましょう。

    Ⅰ.プロローグ:営業マンはヒーロー、現場スタッフは影の忍者

    想像してみてください。

    窓口担当(以下“営業ヒーロー”)がオーナーの前で大きなスライドを広げ、「清掃クオリティ・レビュー返信・夜間対応・鍵受け渡しすべて完璧です!」と雄々しく宣言します。

    オーナーはその豪華資料と笑顔に心を奪われ、「この会社で間違いない!」と契約ボタンを押す。

    でも、真のストーリーはその後始まります。営業ヒーローが舞台に立っている間、現場スタッフ(“影の忍者”)は舞台裏で必死に準備を続けるものの、そのリソース・時間・教育が不足していて、舞台の幕が開くと、照明が暗かったり、小道具が足りなかったり、脚本(運営フロー)があいまいだったり……。観客(ゲスト)は「なんか違う」と感じ取るのです。

    Ⅱ.どんな“ズレ”が起こるのか:ホストが気づく前の小さな亀裂

    以下は、ホストから聞いた「営業ヒーローの約束 → 現場の実態」の典型的なズレ例です:

    約束 実際の現場の様子
    鍵はホストが到着する前に鍵ボックス設置済み 鍵ボックスが未設置 → ゲストが夜に現地で困惑
    清掃スタッフは毎回プロ仕様 & チェックリストあり アルバイト未教育でチェックリスト省略 → ゴミ残し・シーツ汚れあり
    レビュー返信・問い合わせ対応は24時間以内 夜間・休日は誰も見ていない → メッセージが数日返ってこない
    夜間ゲストのトラブル対応可能 実際は夜間スタッフが不在、緊急電話は自動応答や留守電 → ゲストが不安に感じる

    最初の2~3件のゲストは寛容なことが多く、「それくらい許せる」とレビューにも書いてくれる。でも、それが続くと評価がじわじわと下がり、検索順位や表示露出、予約率に波及するのです。

    Ⅲ.営業ヒーローが舞台で語る台本 vs 現場スタッフのアドリブ

    営業ヒーローが作る提案書や契約書には、よくこんな言葉が並んでいます:

    「最高級の清掃クオリティ」「レビュー平均4.8以上」「鍵受け渡し簡単」「24時間対応」「ホスト様は何もしなくていい」

    これ、100点中100点に聞こえます。けれども、現場のスケジュールや人数、教育体制がその台本に追いつけないことが多い。アドリブ(臨機応変な対応)が求められる現場で、準備不足でも対応せざるを得ない状態になる。

    まるで素晴らしい映画の予告編だけを見て映画館に足を運んだら、B級のホラー映画を踏んでしまったような気分。オーナーもゲストも、“期待と現実”のギャップで落胆する。

    Ⅳ.そのズレがもたらす経営悪化の連鎖

    この温度差が放置されると、経営には次のような悪いスパイラルが起きます:

    1. 悪評レビューの蓄積

       最初は小さな文句(「シーツがシミ」「鍵の案内がわかりにくい」) → 評価星が少しずつ落ちる。

    2. 表示順位・露出の低下

       OTAのアルゴリズムはレビューや応答率を重視するため、評価低下→露出減→予約減のパターン。

    3. 価格を下げざるを得なくなる

       予約が入りにくくなると、「ちょっと安めにしないと…」とディスカウント競争に巻き込まれる。

    4. コストがかかる修正対応

       家具の手直し、写真の差し替え、新しい清掃業者の採用、夜間対応スタッフの追加など、後から修正するのは時間も金もかかる。

    5. ホストのストレスと燃え尽き

       「代行会社に任せてよかったはず」が、「代行会社に振り回されて疲れた」に変わる。経営にリアルな疲労が積み重なる。

    Ⅴ.笑い話になる前に確認したい5つの質問

    では、オーナーとして「営業ヒーローの台本」が現場スタッフにちゃんと伝わっているかを見極めるために、以下の質問をぜひチェックしてください。

    1. 「この会社、現場スタッフの写真はありますか?」

      → オペレータースタッフ、OTAスタッフ、夜間対応者など実際に顔の見える人がどういう体制か。

    2. 「現場の人数・配置・交代制はどうなっていますか?」

      → 何棟を担当しているか、人員ローテーションがあるか。

    3. 「夜間・休日トラブル対応は本当に24時間ですか? 過去の実例を教えてもらえますか?」

      → 実際に苦情対応したケースを話してくれるかが鍵。

    4. 「清掃チェックリストと品質保証制度はありますか?」

      → 写真付き報告・チェック合格基準。

    5. 「他のオーナーのリアルレビューを見せてください」

      → 良いレビューだけじゃなく悪いレビュー・対応をどうしたかを含めて聞く。

    Ⅵ.エピローグ:営業ヒーローではなく“現場の力”を見抜け

    社長や営業担当が光り輝いているのは当然です。彼らはプレゼンがうまく、契約を取るプロです。しかし、その光の影(現場スタッフ&オペレーション力)が弱ければ、夜露にぬれたステージのセットのように、見た目はよくても簡単に崩れてしまう。

    民泊運営で大切なのは、ヒーローだけを見ることではなく、「影の忍者たち」がちゃんと道具も時間も訓練も持ってステージに立てるかどうかを見極めること。そのうえで代行会社を選べば、舞台は成功し、観客(ゲスト)の拍手(予約・良いレビュー)も自然と増えるでしょう。