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行政監査が入ったらどうする?民泊オーナーが知っておくべき実務対応とリスク管理

目次

    はじめに:監査は“突然やってくる”

    近年、全国で**民泊に対する行政監査(立入検査・実地調査)が増加している

    住宅宿泊事業法や旅館業法、特区民泊条例などの運用が定着するにつれ、

    各自治体は「無届営業の取り締まり」だけでなく、“登録済み施設の適正運営”**にも重点を置くようになった。

    実際、京都市・大阪市・那覇市など主要都市では、2024年以降に抜き打ち調査・書類確認の件数が増加。

    事前連絡なしで監査担当者が現地を訪れるケースもある。

    「うちは問題ないはず」と油断していると、記録不備や管理者不在を指摘されることも。

    この記事では、民泊オーナーが知っておくべき行政監査の流れと実務対応、リスク回避のポイントを専門的に解説する。

    行政監査とは何か?その目的と根拠

    ● 法的根拠

    行政監査(立入検査)は、

    • 住宅宿泊事業法第13条・第14条

    • 旅館業法第5条

    • 特区民泊条例(各自治体)

    に基づき、自治体職員が営業の実態確認・法令遵守状況の調査を行う制度である。

    監査の目的は「違反を見つけて罰すること」ではなく、

    適正な運営を指導・改善させることにある。

    ただし、重大な違反が見つかれば営業停止・登録取消・罰金の対象にもなりうる。


    行政監査の主なパターン

    行政によるチェックは、以下の3パターンで行われることが多い。

    区分 内容 対応の特徴
    書面監査 年次報告や帳簿・宿泊者名簿の提出確認 事前通知あり/郵送やメール対応可
    実地監査 現地訪問による設備・掲示物・名簿確認 抜き打ち・現場立入あり
    苦情対応型調査 近隣住民・消防・警察などからの通報を受けた調査 突然の訪問・現場確認が多い

    特に「実地監査」「苦情対応型調査」は、事前に日程調整がないことが多く、

    現場スタッフや管理代行会社の対応品質が問われる。

    監査でチェックされる主な項目

    行政監査では、以下のポイントを重点的に確認される。

    自治体ごとに多少異なるが、共通するチェック項目は次の通り。

    【書類関連】

    • 届出証・認定証・旅館業許可証などの原本の提示

    • 宿泊者名簿の記録内容(氏名・住所・国籍・宿泊日数)

    • 外国人宿泊者の本人確認書類(パスポート写し等)

    • 管理者情報(24時間対応体制・苦情窓口)

    • 清掃・消毒記録、ゴミ分別掲示の有無

    【現地確認】

    • 玄関・部屋の掲示物(届出番号・管理者情報など)

    • 消火器・火災報知器・避難経路図の設置状況

    • ゴミ置き場・騒音対策の実施状況

    • 鍵の保管方法・セキュリティ管理

    • 無人運営の場合の連絡体制・入退室管理方法

    【行政が重視する3要素】

    1. 宿泊者の安全確保(消防・防災)

    2. 地域生活への影響防止(騒音・ゴミ問題)

    3. 本人確認・記録保存(不法滞在防止)


    監査が来たときの正しい対応手順

    (1)まずは落ち着いて身分証を確認

    担当者は自治体職員または保健所・観光課の職員。

    必ず職員証・身分証を提示してもらい、訪問目的を確認。

    身分が確認できない場合は、電話で自治体の代表窓口へ照会しても問題ない。

    (2)書類・掲示物をすぐに提示できるようにする

    最も多い指摘が「届出証が掲示されていない」「宿泊者名簿をすぐに出せない」というケース。

    現地に紙ファイルを常備し、以下をすぐ取り出せる状態にしておくこと。

    • 届出証・認定証・許可証のコピー

    • 宿泊者名簿(紙・デジタルいずれでも可)

    • 管理者・緊急連絡先一覧

    • 消防設備点検報告書(あれば)

    (3)質問には正直に、わかる範囲で回答する

    虚偽の説明はNG。

    不明点は「担当者に確認します」「後日資料を提出します」と正直に伝える。

    曖昧な返答よりも、正確な報告を重視する姿勢を示す方が印象が良い。

    (4)指摘事項は記録し、改善報告を行う

    監査後に「改善指導書」や「口頭指導」を受ける場合がある。

    その際は、対応内容を記録し、写真付きで改善報告を提出する。

    提出期限を過ぎると「未対応扱い」になるため注意。

    よくある指摘・違反事例とリスク

    指摘内容 想定される行政対応 対策ポイント
    管理者の夜間不在 指導・再教育命令 夜間電話対応・代行委託契約を明記
    宿泊者名簿の未記録・保存不備 文書指導/過料(住宅宿泊事業法第15条) 3年間保存・定期バックアップ
    消防設備の未設置・点検漏れ 立入停止・改善命令 消防設備士の点検を年1回実施
    外国人本人確認の未対応 指導・改善要請 パスポート写しを電子保存/本人署名欄確保
    無届で用途変更が必要な改装 行政指導・使用停止命令 建築士・行政書士に事前確認を依頼

    特に「管理者体制」と「記録保存」は全国的に重点監査項目。

    代行会社に委託している場合でも、最終責任は届出者(オーナー)本人にある。


    監査に備えて日常的にすべき3つの準備

    1. 書類フォルダを現地常備

       → 届出証・名簿・連絡表を一式まとめて保管。

    2. 清掃会社・代行業者と情報共有

       → 現場スタッフが監査時に対応できるよう、連絡フローを共有。

    3. 年1回の内部点検を実施

       → 消防・設備・掲示・名簿管理を自主チェック。

        定期的に自分で「簡易監査」を行うことで、行政からの指摘を防げる。

    指導・処分を受けた場合の対応

    もし「改善命令」や「営業停止命令」を受けた場合でも、

    多くは誠実な改善報告で再開可能である。

    • 改善内容を写真付きで報告

    • 対応した日時と担当者名を明記

    • 再発防止策を添付

    「逃げずに対応する」ことが最善のリスク管理。

    逆に無視や虚偽報告をすると、登録取消や罰金のリスクが高まる。

    監査をチャンスに変える考え方

    行政監査はネガティブな出来事ではない。

    むしろ、運営体制を見直す絶好の機会である。

    • 掲示物やマニュアルを更新

    • 管理代行会社の体制を再点検

    • 消防・建築の再チェック

    こうした改善を経ることで、レビュー評価や再稼働率の向上にもつながる。

    監査対応の質は、事業者としての信頼度そのものと言える。

    まとめ:監査は“恐れるもの”ではなく“整えるきっかけ”

    行政監査は、真面目に運営している民泊オーナーにとって

    「不安」よりも「チャンス」にすべきイベントである。

    重要なのは、

    • 書類と現場を常に整えておくこと

    • 代行会社やスタッフと連携を取ること

    • 改善要請には誠実に対応すること

    監査対応をきちんと行うオーナーは、行政からの信頼が厚くなり、

    結果的に長期的な運営安定とブランド力向上につながる。