民泊バブルの終焉|特区民泊停止と再建築不可で“西成の激戦”が静かに終わる

特区民泊終了で西成に“静寂”が戻る?
民泊激戦区・西成が抱える「もう増えない」現実
大阪・西成区。
かつては“安宿の街”として知られ、旅人と労働者が交差する独特の雰囲気を持つ地域だった。
それが近年、インバウンドの波とともに**「民泊の街」**へと変貌した。
築古の木造長屋が次々とリノベーションされ、外国人観光客がスーツケースを引いて路地を歩く――そんな光景が日常になった。
だが今、その**「民泊バブル」**が終わりを迎えようとしている。
民泊が“増えすぎた街”の現実
西成は全国でも珍しい、“民泊が飽和状態”のエリアだ。
数年前までは「格安で泊まれる穴場」「立地も良く、観光地へのアクセスも抜群」と注目を集めた。
しかし、供給が増えすぎた。
Airbnb・Booking.com・楽天トラベルなど、どのサイトを見ても似たような物件が並ぶ。
1泊7,000円でも空室、5,000円に下げても埋まらない。
立地も清掃も悪くないのに、思うように予約が入らない。
それが今の西成の現場だ。
民泊は本来、旅行者の需要に合わせて“ちょうどよく”存在するのが理想だが、
ここ数年は「誰でもできる」と思われたことで、需要より供給が先に走った。
結果、稼働率は下がり、価格競争が激化。
「民泊激戦区」と呼ばれる今の西成は、**運営者にとっては“生き残りの戦場”**となっている。
特区民泊の新規受付、ついに停止へ
そんな中で追い打ちをかけるニュースが2026年5月。
**「大阪市の特区民泊、新規受付停止」**が正式に決まった。
これはつまり、「新たに特区民泊を始めることはできない」ということ。
これまで特区民泊は、一般の住宅宿泊事業(いわゆる“180日ルール”)と違い、
180日以上運営できる“特例”だった。
その枠が消える。
つまり、今後は旅館業許可を取るしかなくなる。
しかし――ここにも大きな壁がある。
再建築不可・道路幅1.8m・消防NG。物理的に“無理な街”
西成の街並みを歩くとわかる。
路地が狭い。とにかく狭い。
建物と建物の間に人が一人通るのがやっと、という道も多い。
建築基準法上、建物を新築・再建築するためには幅員2メートル以上の道路に2メートル以上接していることが必要だ。
だが西成の古い町並みの多くは、幅員1.8メートル前後。
つまり“再建築不可物件”だ。
さらに、旅館業を取得するためには避難経路・非常口・消防設備の設置が必須。
だが、古い長屋や密集住宅地ではこの条件を満たすことが難しい。
結果として、
「新しく民泊を作りたくても、法的にも構造的にも作れない」
という状態に陥っている。
“やろうと思ってもできない”が、むしろちょうどいい
一見すると「規制強化でビジネスチャンスがなくなった」と思うかもしれない。
だが現場で運営している人からすれば、これはむしろ歓迎すべき流れだ。
なぜなら、ここ数年の西成は供給が多すぎた。
隣も民泊、向かいも民泊。
同じ間取り、同じ設備、同じ料金。
旅行者からすれば“選び放題”だが、運営者からすれば“埋まらない地獄”だ。
新規参入が止まることで、
これまで頑張って運営を続けてきた既存施設がようやく息をつける状況になる。
「もうこれ以上は増えない」――それは、業界にとっての健全化でもある。
「激戦区」から「成熟区」へ
西成は、これから「激戦区」ではなく「成熟区」へ変わるだろう。
増えすぎた民泊が整理され、
運営の質が問われる時代に入る。
・清掃の品質
・ゲスト対応の丁寧さ
・多言語サポート
・地域との共存
単に“部屋を貸す”だけではなく、
**“街と共に宿泊体験を提供する”**という視点が求められる。
そして、この変化を恐れず受け入れたオーナーや運営会社こそ、
今後の大阪民泊市場で長く残ることができるだろう。
「増えない」ことは“悪”ではなく、“安定”の始まり
民泊がもう増えない。
これは決して悪いことではない。
供給過多が落ち着けば、価格は安定し、既存施設の稼働率も戻る。
地域住民との摩擦も減り、街としてのバランスも保たれる。
“西成=民泊の街”という時代は終わるが、
その代わりに、“西成=ちゃんとした宿の街”が始まる。
「もうこれ以上は増えなくていい」
そう思えるくらいが、街にとっても、運営者にとっても、ちょうどいいのかもしれない。
✍️まとめ:民泊バブルのあとに残るのは、“静かに続く宿”
民泊が急増した街ほど、崩壊も早い。
だが、西成はその先を見据えられる街だ。
再建築不可、道路幅員、消防法――
この街の“制限”は、実は“ブレーキ”ではなく“守り”なのかもしれない。
数ではなく、質へ。
爆発的な成長ではなく、静かな継続へ。
民泊が「街に根を張る産業」として成熟していく未来が、すぐそこにある。
