Columnsコラム

「ファミリー旅行が避ける街」──外国人にも広がる西成の“夜の印象”

目次

    ⚠️「西成の夜」をGoogleマップが教える時代

    外国人旅行者が避け始めた“ディープ大阪”の現実

    大阪・西成。

    この街の名前を聞いて、かつては地元の人でさえ近寄りがたい場所だったと答える人も少なくない。

    ところが2015年以降、Airbnbとインバウンドの波が押し寄せ、

    “ディープ大阪”という名で観光地化が進んだ。

    「安く泊まれる」「ローカルで面白い」「日本のリアルが見られる」――。

    そんなレビューがSNSで広まり、バックパッカーたちは喜んで西成に宿を取った。

    だが2025年、状況は変わりつつある。

    外国人観光客の間で、

    「西成は少し怖い」「家族旅行では避けたい」

    という声がじわじわと広がっているのだ。

    口コミが変えた「西成のイメージ」

    今や旅行者は、宿を選ぶときにガイドブックよりもGoogleマップと口コミを信じる。

    そしてその口コミの中には、

    こうしたコメントが並び始めている。

    “Location is convenient, but the area feels unsafe at night.”

    “We passed through Tobita area by mistake — not suitable for families.”

    “Too many love hotels and bars nearby.”

    つまり、西成周辺の“夜の空気”が、世界中のレビューサイトに可視化されている。

    かつては一部の人しか知らなかった街の雰囲気が、今やGoogleレビューで世界中に共有されているのである。

    飛田新地、あいりん地区――観光と日常が交錯する街

    西成を語るうえで外せないのが、「飛田新地」だ。

    古い木造建築が並ぶその一帯は、今も独特の文化を残す“特別なエリア”。

    歴史的にも、そして社会的にも複雑な背景を持っている。

    観光目的で訪れる外国人の中には、

    「ノスタルジックで面白い」と感じる人もいれば、

    「想像と違って怖かった」と感じる人もいる。

    実際、近年はファミリー層や女性グループが“道を一本間違えて通ってしまった”ケースもあり、

    SNS上ではこんな投稿が目立つ。

    “We didn’t know what area it was… not good for children.”

    “Google Maps took us through some strange streets.”

    つまり、ディープ大阪の観光地化が進む一方で、“想定外の出会い”が増えているのだ。

    「治安の悪さ」よりも、“印象の悪さ”が問題

    現場で民泊を運営する人間から見れば、西成は意外と安全だ。

    夜中に人通りが途絶えることも少なく、トラブルが起こる頻度も低い。

    しかし、問題は「実際の治安」ではなく「外からの印象」だ。

    外国人旅行者にとって、“夜に薄暗い通りがある”だけで「危険」と感じる。

    それがレビューに書かれ、検索結果に残る。

    そしてその情報は、何年もインターネット上に残り続ける。

    治安よりも「イメージの治安」が悪化している。

    これが、いま西成が直面している最大の課題だ。

    “安宿街”の再生が「観光ブランド」として問われる時代へ

    西成の民泊や簡易宿所の多くは、もともと格安滞在を目的とした施設だ。

    1泊3,000〜5,000円台の手頃な価格で、旅行者にとってはありがたい存在だった。

    しかし、観光客層がバックパッカーからファミリー層・カップル層へ変化した今、

    “安いだけ”では選ばれない時代になっている。

    海外からの旅行者が求めているのは、

    • 安全に夜を歩ける街

    • 子どもと一緒に泊まっても安心できる宿

    • 清潔で静かな環境

      である。

    この観点で見ると、西成は今も“再開発途中”の街。

    民泊が急増したことで一時的に注目されたが、

    観光ブランドとしての“信頼”がまだ追いついていないのだ。

    外国人に広がる“口コミの連鎖”

    英語圏・中国語圏・韓国語圏の旅行掲示板を見ても、

    「Osaka Airbnb safe area?」「Avoid Nishinari at night?」といった投稿が急増している。

    特にYouTubeやRedditでは、現地体験を共有する動画が増え、

    “西成=危ない”という認識が世界的に広まっている。

    この情報の拡散スピードは、行政が出すどんなパンフレットよりも早い。

    そしてそれは、民泊の予約率に直接影響を与える

    「安くても怖い場所」と思われた瞬間、クリックされなくなる。

    それが2025年の宿泊マーケットの現実だ。

    それでも、西成は消えない。

    ただし誤解してはいけない。

    西成は、消える街ではない。

    むしろ“変わる準備をしている街”だ。

    リノベーション宿や地域食堂、若い経営者によるカフェなどが少しずつ増えている。

    「治安が悪い」という印象を逆手に取り、

    “人間味のあるリアルな大阪”として再評価する動きもある。

    だが、その転換には時間がかかる。

    そして何より、外から来る人の“期待値”を正しくコントロールする発信が求められている。

    まとめ:観光地化の光と影

    西成が抱えるのは、「危険」ではなく「誤解」だ。

    しかし、ネットの世界では誤解こそが現実になる。

    特区民泊が終わり、民泊の新規供給が止まる今こそ、

    この地域の“本当の価値”を見直すタイミングかもしれない。

    飛田新地やあいりんの存在を無視して観光を語ることはできない。

    だが、それらを“見せ方”次第で歴史・文化として再構築できるかどうか

    それが、これからの西成が生き残る鍵だ。

    “Safe or unsafe”──

    その一言では語り尽くせない街の複雑さを、

    私たちはようやく真正面から向き合う時期に来ている。