住宅宿泊事業法に迫る静かな包囲網|“禁止しないでやらせない”東京の新戦略

特区民泊が終わり、今度は【住宅宿泊事業法】にメスが入る
2026年。
東京では、新しい民泊施設が“生まれない街”が増えていく。
きっかけは、特区民泊の新規受付停止――
だが、止まるのはそれだけじゃない。
今、各区役所の会議室では、ひっそりと**「住宅宿泊事業法」そのものを封じる作戦**が進んでいる。
「特区を止めたら、今度は新法を潰せ」
行政の裏で進む“民泊包囲網”
特区民泊の新規受付が終わる――。
それを聞いた民泊オーナーたちは「じゃあ住宅宿泊事業法でいけばいい」と息をついた。
だが、東京の区役所はその一歩先を読んでいた。
「抜け道があるなら、塞げばいい」
今、23区の多くが住宅宿泊事業法(以下:民泊新法)に対し、**“上乗せ条例”**の制定を協議している。
この「上乗せ条例」が曲者だ。
国が「年180日以内なら民泊OK」と言っても、
区が「うちは平日はダメ、土日だけ」と言えば、それが優先される。
つまり、法律で認められた“180日”が、**区の判断ひとつで“実質100日以下”**になる。
そして最も重要な目的は――
「新しい民泊を、増やさないこと」だ。
区役所が密かに練っている「民泊をやらせない5つの仕組み」
議事録を覗くと、どの区も似たようなワードが並ぶ。
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常駐管理者義務の強化(遠隔代行NG)
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平日営業の禁止(土日のみ営業可能)
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第一種低層住居専用地域での禁止
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住民説明会の義務化(説明しないと届出できない)
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24時間対応窓口の設置義務(実質的に中小には不可能)
どれも一見“安全対策”に見える。
だが、その裏には明確な意図がある。
「個人オーナーが民泊を続けられないようにする」
マンションの1室でコツコツ運営していた個人ホスト。
地方から上京して空き家を活用しようとした投資家。
彼らをじわじわと締め出すような条例が、区ごとに静かに進行中なのだ。
“住宅宿泊事業法”は生きてる。でも「使えなくする」
表向き、住宅宿泊事業法は国の制度として残る。
だが、実態はもう“骨抜き”だ。
新宿区では夜間営業に制限をかける動き。
中野区では常駐スタッフを義務づける検討。
台東区は住宅密集地での新規届出を制限する方向。
つまり――
「法では認めるが、運用で潰す」。
行政は“禁止”という言葉を使わない。
代わりに“安全・安心のため”と称して、
誰も参入できないルールを積み重ねていく。
民泊の「住民票」は、もう嫌われ者。
背景には、区民の“疲れ”がある。
夜中のスーツケース音。
エレベーターでの無断同乗。
ゴミの分別ミス。
すべてが「また民泊か」として積み上がってきた。
苦情窓口の電話は止まらない。
議員も、選挙前にはこの言葉をよく使う。
「民泊対策を強化します」
そう言えば、拍手が起きる。
もはや、民泊は“社会の敵”にされつつある。
オーナーの焦り:「180日さえ守ればOKじゃないのか?」
多くの民泊オーナーが、今こう言っている。
「国が180日認めてるのに、なぜ区が止めるんだ?」
理由は簡単。
住宅宿泊事業法は“届出制”であって、“許可制”ではない。
つまり、国は「書類を出せばOK」としているが、
区は「書類を受け取るかどうか」を自由に決められる。
これが、“上乗せ条例”の怖さだ。
書類を出しても受け取ってもらえない。
消防設備を整えても、住宅地だから却下。
説明会を開いても、住民が反対したらストップ。
結果、法律は生きているのに、実際には使えない。
これが2025年〜2026年にかけて訪れる“民泊の第二の冬”だ。
「止める条例」から「辞めさせる条例」へ
今後の議論の中心は、
“新規を止める”だけでは終わらない。
今度は、既存民泊にも
「常駐義務」「夜間対応」「営業報告書提出」など、運営負担を増やして辞めさせる方向へ進む可能性が高い。
行政の理屈はこうだ。
「続けたいなら、きちんと人を置いて管理してほしい」
だが、現実問題として、
1件や2件の民泊でスタッフを常駐させるのは不可能。
つまり、個人ホストを自然淘汰させる条例が完成する、ということだ。
民泊の“撤退戦”が始まった
2025年、特区民泊が終わり、
2026年、住宅宿泊事業法が絞られる。
次に来るのは、撤退の時代だ。
すでに一部の代行会社は「住宅宿泊事業から撤退」「旅館業転換専門」に方向転換している。
行政書士の間でも「新規申請より廃止届のほうが多い」と囁かれている。
民泊業界は、
“始めるビジネス”から“終わらせるビジネス”へ――
その転換点に立っている。
まとめ:「民泊を潰すつもりはない」――でも、誰もできないようにする。
行政は決して「禁止」とは言わない。
そんなことをすれば批判されるからだ。
代わりに、こう言う。
「安全で安心な宿泊環境の整備を進めます」
だが、その中身は――
・常駐必須
・住民説明義務
・営業日削減
・苦情対応の記録保存
そう、“やらせないための安全策”だ。
特区民泊を止めたあと、
今度は住宅宿泊事業法に“絞めつけ”が始まる。
民泊の敵は法律ではない。
区役所の「現場判断」だ。
そして東京は、また一つ、
「誰も民泊を新しく始められない街」へ近づいていく。
