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民泊運営代行会社の閉業が多発──背景にある「新事業への鞍替え」と“めんどくささ”のリアル

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    ここ数年、民泊業界では、静かだが確実に進行している現象がある。それが、民泊運営代行会社の閉業の増加だ。一見、コロナ禍やインバウンドの増減などが主な理由に思われるかもしれないが、実際に現場の声を拾っていくと、もっと根深い事情が浮かび上がってくる。それは、運営代行業が割に合わず、別の事業にシフトしているという事実である。

    民泊ブームからの急成長と、その反動

    2018年の住宅宿泊事業法(民泊新法)の施行をきっかけに、全国的に民泊物件が増加し、同時に民泊運営代行会社も急増した。小規模ながらも高収益を目指せると期待され、多くのベンチャーがこの分野に参入した。

    代行業者の業務内容は幅広い。ゲスト対応、清掃、料金設定、OTAサイトの運用、リネン手配、トラブル対応……。ホストの「めんどくさい」を全て肩代わりすることが代行の存在意義だった。ところが、ここにビジネスの矛盾が潜んでいた。

    めんどくさい仕事は、めんどくさいまま残る

    民泊運営は“地味で細かい”タスクの積み重ねだ。予約変更やゲストからの深夜のクレーム対応、急な清掃依頼、設備の不具合、保健所とのやりとりなど、「自動化」や「効率化」が進みにくい領域が多い。

    初期は「業務量が多くても、部屋数を増やせば利益は出る」と考えられていたが、実際にはスケールすればするほど、対応すべき問題も増えていく。人手不足、質の高いスタッフ確保、ゲスト評価のプレッシャー……。代行業者たちは、「利益が出ても労力に見合わない」という現実に直面していった。

    新規事業への転身が加速

    こうした状況の中で、民泊運営代行業者たちが目を向けたのが、SaaS、物販、内装デザイン、Web制作、コンサルティングなど別業種への事業転換だった。

    多くの民泊代行会社は、マーケティング力やテクノロジー活用のスキルを持っており、別業界への応用が比較的容易だった。加えて、「民泊のゲスト対応よりも、もっと楽に利益が出る」業種に出会ってしまえば、もう民泊代行に戻る理由は少なくなる。

    とある元代行業者は語る。「うちは今、ECサイトの構築代行をメインにしています。正直、民泊よりずっと楽ですし、夜中に電話が鳴ることもない。もう戻りたくはないですね」と。

    民泊ホスト側に残された課題

    この流れによって、**多くの民泊ホストが突然“運営を丸投げできなくなった”**という事態に直面している。代行会社が「フェードアウト」するように連絡が取れなくなり、管理の引き継ぎも不透明なまま投げ出されるケースも少なくない。

    ホストにとって代行業者は「裏方」ではなく「心臓部」だ。特に遠隔地での運営をしていたホストにとっては、事実上の事業停止に追い込まれてしまうリスクがある。

    民泊代行業は“業界”として再定義されるべきか

    今後、民泊運営代行という業種が持続可能なビジネスとなるには、「割に合わない仕事」という現状を正しく見つめ直し料金体系の見直し、業務範囲の明確化、AIや外注の活用による効率化などが必要だ。

    また、ホスト側にも「完全に任せる」姿勢から、「部分的な協力者」としての関係性を築く意識改革が求められるかもしれない。民泊運営の“めんどくささ”は、ある意味でそのまま“人との関係の深さ”でもある。そこを省略しすぎた結果が、今のような代行会社の大量閉業につながっているとも言える。

    結びに

    民泊代行会社の閉業が加速する背景には、「もっと効率よく稼げる仕事に移りたい」というシンプルな人間心理と、「めんどくさい仕事は他人もやりたくない」という現実がある。

    民泊業界の裏方でありながら、最前線でトラブルと戦ってきた彼らが次々と現場を去っていく中、これからの民泊運営は、より「地に足のついた持続可能な形」への再構築が求められている。