民泊代行業者が突然消えた日──「任せていたのに…」あるオーナーの経験から見る代行業閉業のリアル

「ある日、代行業者からのLINEが途絶えたんです。おかしいと思って電話しても出ない。まさか…と思ってオフィスに行ったら、もぬけの殻。鍵もゲストも清掃も、全部放り出された状態でした」
これは、大阪市内で2室の民泊物件を所有していたオーナー・Kさん(40代・会社員)の実体験だ。
Kさんは、副業として民泊を始めたが、日々の運営には関われないため、業務のすべてを代行会社に任せていた。契約当初は「ホスト業を完全にお任せできます」と謳っていたその会社。しかし、数年後、突然の音信不通とともに、現場は放置されたまま、代行業者は姿を消した。
代行業者が“めんどくさくなった”という真相
取材を進めると、このような「フェードアウト型の閉業」は、決して珍しい話ではなかった。
複数の元・民泊代行会社代表への聞き取りによれば、清掃手配の煩雑さ、ゲストからの理不尽な要求、レビュー管理、突発的な設備トラブルへの対応など、思った以上に運営代行業務は重労働だという。
とある元代行業者は、こう語る。
「最初はビジネスとして夢があった。インバウンドも増えるし、部屋数が増えれば収益も上がる。でも、実際は“トラブル処理係”のような日々で、人件費も膨らみ、利益がほとんど残らなかったんです」
「そんなとき、友人に紹介されたWeb制作の仕事が思った以上に安定して楽だった。夜中に電話も鳴らないし、客対応もシンプル。それで気づいたんですよ。『あれ? 民泊ってわざわざやる意味ある?』って」
「完全に任せられる」は幻想だった?
Kさんのように「すべてを丸投げできる」という期待で民泊を始めたオーナーは多い。だが、代行会社が抜けたとき、その「依存」の危うさに気づかされる。
Kさんは当時のことをこう振り返る。
「レビューでクレームがついた時も『全部やってくれるって言ったよね?』と詰め寄ったことがあるんです。今思えば、あの時点でもう関係は冷え始めていたのかも。最後は何の引き継ぎもないまま消えて、本当に困りました」
代行業者とホストの間に**「サービス提供者と顧客」という一方通行の関係性しかなかった**ことも、問題の根底にある。どんなに「全部任せられる」と言っても、実際には共同経営に近い姿勢と信頼構築が必要だったのだ。
現場から離れていく人、残される人
このように、民泊代行業者の閉業が相次ぐ背景には、単なるビジネス上の判断以上に、「しんどい仕事からは離れたい」という心理的要因が強く影響している。
民泊の運営は、本来「地味で、トラブルの多い、人間臭い仕事」だ。だが、初期のブームでは、それがテック産業や不動産投資と同じ土俵で語られてしまった。「自動で稼げる」「仕組みで回る」と言われたが、それは現場のリアルとはズレていた。
そして今、その現実に疲れた代行業者たちはもっと楽で利益率の高い仕事へと移っていく。その結果、残されたのは、運営のノウハウを持たない不動産オーナーたちだ。
今後、オーナーが取るべき選択肢
民泊を今後も続けるオーナーには、いくつかの道がある。
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自分で運営する覚悟を持つ
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複数の代行会社に分散して依頼し、リスクヘッジする
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運営委託費用が安すぎる会社には委託しない
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「任せっぱなし型」に出来る運営会社を見極めて依頼する
結びに:信頼を「任せる」には、関与も必要
民泊は、不動産投資でもあり、接客業でもある。完全に“楽して稼げる”ものではない。代行会社に任せたからといって、ホストとしての責任や関心をゼロにはできないのだ。
Kさんは、今は新しい代行業者と連携しつつ、ゲスト対応の一部を自分でもこなしている。
「正直、面倒なこともあるけど、少しだけ現場を見るようになったことで、ゲストの声に耳を傾けられるようになった。あの“放置事件”があって、逆にちゃんと向き合うようになれたのかもしれません」
民泊は「任せて終わり」ではなく、「関わってこそ回る」事業だ。その認識が、これからの民泊業界を少しずつ健全にしていく鍵になるだろう。