Airbnbが“ゲストファースト”に偏りすぎている現実 —— ホストが抱える不満とリスク

はじめに
Airbnbは、2008年の設立以来「旅の形を変える」ことを掲げ、世界中で急速に成長してきました。当初はカウチサーフィンに近い形での“ホームシェア”から始まり、今や高級ヴィラから一棟貸し、キャンプ場まで網羅する巨大プラットフォームに成長しました。
その一方で、近年、ホスト側の不満が静かに、しかし確実に増えてきているのも事実です。特に注目すべきは、「ゲスト重視のサポート体制」が結果的にホストにとって不利な状況を生み出しているという点です。
本コラムでは、Airbnbの現在の運営方針がどのようにホストに不利に働いているのか、実際の事例を交えて考察していきます。
ゲストの“キャンセル自由”とホストの“無力”
Airbnbでは、ホストが自身の予約に対して柔軟、中程度、厳格などのキャンセルポリシーを設定できます。しかし**例外規定(Extenuating Circumstances Policy)**の存在により、ホストのポリシーが無力化されるケースが少なくありません。
【実例①】到着直前の「ノーショーキャンセル」
ある大阪のホスト(40代女性)は、7泊の長期予約を受け入れ、清掃、備品の購入など万全の準備を整えていました。ゲストは到着予定当日に「体調不良のためキャンセルしたい」と連絡。
ホストは「厳格なキャンセルポリシー」を設定していたため、返金義務はないと考えていたものの、Airbnbのサポートがゲスト側の体調証明書を受理し、全額返金を実行。ホストには一銭も入らず、しかもその日から7日間の空室が生まれたという事例です。
ゲストの主張は“疑わしきは罰せず”、ホストは“有罪推定”
ゲストが「写真と違う」「清掃が行き届いていない」などとクレームを入れると、即時対応として全額返金、あるいはAirbnbによる強制キャンセルが行われることがあります。多くの場合、ホストに事前説明すらないか、ゲストが出発した後に通告されます。
【実例②】「毛が一本落ちていた」→全額返金
京都で運営する別のホストは、到着当日の深夜にゲストから「バスルームの床に髪の毛が1本あった」とメッセージを受け取りました。翌朝にはAirbnbサポートから連絡があり、「ゲストが非常に不快に感じたため全額返金します」との通知。
写真の提出を求められることもなく、ホストは清掃費・宿泊料・手数料をすべて失い、レビューには「不衛生」と記載されました。
このように、Airbnbの対応は“ゲストに疑いがある場合、まず返金ありき”で進められることが多く、ホスト側が反論する余地は非常に限られています。
「レビューが全て」の構造がホストを萎縮させる
Airbnbでは、レビューの星評価とコメントがホストの命運を左右します。わずか一つの星1つ評価で、検索順位が下がり、予約率が激減することもあります。
しかし、そのレビューが「明らかに不当」であっても、Airbnb側が削除に応じるのは極めて稀です。AIによる自動スクリーニングではじかれなければ、たとえ嘘や誇張が含まれていても掲載され続けます。
ゲストの“カスタマーサポート力”とホストの“孤立感”
Airbnbはゲスト向けのサポートチャットやコールセンター体制が整備されている一方で、ホストの問い合わせには対応が遅く、曖昧な返答で終わるケースが多いです。
【実例③】ホストサポートに2日待たされた結果…
沖縄で複数物件を運営しているホストは、チェックイン当日にゲストから「鍵が開かない」と連絡を受けました。ホストは鍵の取り出し方について、ゲストへ事前に送っていたにも関わらず、ゲストがサポートに連絡をして、カスタマーサポートの独断でAirbnbが全額返金を決定。ホストの評価も下がり、損失額は10万円を超えました。
文化の違い“外国人カスタマーサポート”の“知識不足”
【実例④】日本の法律に沿って対応しているのに理解してもらえなかった…
日本においては、「住宅宿泊事業法(民泊新法)」や「旅館業法」など、宿泊施設運営に関わる法令が明確に定められており、宿泊者情報の取得・保管は法律で義務付けられている重要な要件です。
ところが、最近のAirbnbのカスタマーサポートとのやり取りでは、法令に無知なスタッフが独断的な回答をしてしまう事例が増えており、ホストが板挟みになるケースが相次いでいます。
「Airbnbのポリシーでは、パスポート提出は必須ではありません。ゲストの意思を尊重してください。」
この発言にSさんは愕然としました。これは明確に日本の法令と矛盾している誤案内であり、そのまま従えばホストが行政処分のリスクを負う形になります。
さらに、Sさんが法令の文言と出典を提示して再度問い合わせたものの、担当者からの返答は「社内で確認します」の一点張り。そのまま数日が経過し、チェックイン当日にトラブル。
これは、単なる“知識不足”の域を超えて、システムとしての欠陥と言っても過言ではありません。
なぜこのような事態が起きているのか?
このような運用の背景には、Airbnbの「プラットフォームとしてのリスク回避」と「ゲスト第一主義」があります。トラブルが起きた際、ゲストがSNSなどで苦情を拡散すれば、ブランドイメージに直結するため、Airbnbは「ホストよりゲスト」を守る判断を下す傾向が強いのです。
今後、ホストに求められる自衛策
このような状況下でホストができることは限られていますが、以下のような対策は一定の抑止力となります。
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外部カメラやスマートロックの導入(トラブル時の記録として活用)
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詳細なハウスマニュアルと写真付きの清掃チェックリスト
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宿泊前に「同意確認」のやりとりをAirbnbチャット上で残す
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おかしいと思ったカスタマーサポートの対応にはとことん追求する
また、ホスト同士のネットワークを作り、トラブル事例を共有することも重要です。情報交換を積極的に行うべきでしょう。
終わりに:バランスを取り戻すために
Airbnbが健全なプラットフォームであり続けるには、「ホストあってのゲスト」という本来の構造を再認識する必要があります。現在のように一方的なゲスト優遇が続けば、良質なホストが離れ、プラットフォーム全体の質が低下してしまいます。
Airbnbにとっての最優先課題は、“信頼できるホスト”を保護する体制の構築です。そうでなければ、ホスピタリティの本質を見失った、ただの「安価な宿泊検索サイト」に成り下がってしまうでしょう。