「マナーが悪いのは誰か?」——民泊報道に潜む偏見と、見落とされる“日本人ゲストの現実”

ここ数年、民泊業界に関する報道で、外国人ゲスト、特に中国人観光客に関するネガティブな内容が繰り返し取り上げられてきた。
「マナーが悪い」「ゴミの分別をしない」「夜遅くまで騒ぐ」といった内容は、ニュースサイト、SNS、地域の苦情掲示板などで半ばテンプレート化されている感すらある。
しかし、こうした報道の影で、日本人ゲストによるリゾート貸別荘での破壊行為や騒音被害、マナー違反が“あまり報じられない”現実が存在する。
果たして、「マナーが悪い」というイメージは事実に基づいたものなのか? それとも、潜在的な差別意識に裏打ちされた偏った視点なのか?
外国人ゲスト=マナーが悪い、という構図の危うさ
報道の中では「中国人観光客の○○」という枕詞が頻繁に使われる。例えば:
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「中国人団体客がゴミを放置」
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「中国人観光客が民泊に騒音トラブル」
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「中国語が飛び交ってうるさいと近隣住民が不安視」
こうした報道は、事実の一面ではあるだろう。文化の違い、生活習慣、言語障壁から、誤解やトラブルが生まれやすいのもまた現実だ。
しかし、こうした「国籍を明記してネガティブに報じる」報道が繰り返されると、やがてそれはステレオタイプとなり、差別的な空気を強化する。
実際、SNSでは以下のような投稿が散見される:
「中国人が来るならその民泊は使いたくない」
「あの物件、中国人が多いらしいから避けた方がいい」
これはもはや、事実ベースの注意喚起を超えて、差別的な認識を助長するものとなっている。
見逃されている「日本人ゲスト」のマナー問題
一方、地方のリゾートエリアや観光地で、貸別荘や一棟貸し民泊を利用する日本人ゲストによるトラブルは、業界関係者の間では深刻な問題とされている。
しかしこれらが全国ニュースになることは少ない。
■ よくある日本人ゲストの迷惑行為(実例):
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10名以下で予約したのに、20名以上で宿泊・パーティー化
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深夜2時まで大音量で音楽や花火、近隣住民が通報
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ゴミの分別ゼロ、BBQの炭やタバコの吸い殻を庭や駐車場に放置
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備品の破損・盗難(ゲーム機、スピーカー、調理器具など)
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ペット不可物件に内緒で犬猫を持ち込み
ある貸別荘オーナーはこう語る:
「正直、外国人より日本人のほうがマナーが悪いと感じることがある。外国人ゲストは説明すれば理解してくれるが、日本人は“自分の別荘気分”でルールを無視する」
つまり、問題行為は国籍ではなく、個人のモラルと環境への理解の有無によるということだ。
報道の“二重基準”とその影響
報道機関やネットメディアは、ときに読者の関心を引くために、センセーショナルな見出しや特定属性への言及を強調する傾向がある。
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外国人トラブル:国籍を明記し、報道されやすい
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日本人トラブル:「利用客」として匿名で処理されがち
この“非対称性”が、外国人への不信感と偏見を醸成し、結果的に地域住民の排他的感情を助長してしまう。
さらには、民泊運営者が外国人ゲストを受け入れ拒否する動きも一部で見られるようになっている。
国籍よりも「ルールと教育」がカギ
真に解決すべきは、「どこの国の人か」ではなく、「その人がその地域・施設のルールを理解し、守る意志があるかどうか」である。
■ すべてのゲストに必要なのは:
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明確でわかりやすいルール提示(多言語化含む)
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ルール違反時のペナルティ明示と運用
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自動化に頼りすぎず、人間的なフォローをする体制
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国籍や文化背景を尊重しながら、同じ基準で評価・対応する運営方針
結語:見えない偏見が、観光立国の未来を蝕む
日本が目指す「観光立国」には、多様な文化や価値観を受け入れる土壌が不可欠だ。
しかし、報道やSNSで無自覚に拡散されるステレオタイプは、知らぬ間にその土壌を傷つけている。
民泊をはじめとする宿泊産業において、私たちが問うべきはこうだ:
「本当にその報道は“客観的事実”なのか?」
「国籍ではなく、個人の行動として公平に評価しているか?」
偏見から自由な視点で物事を見る力は、ホストにもゲストにも、そして社会全体にも必要とされている。
“誰が”悪いのかを問う前に、“どうすればすべてのゲストが心地よく滞在できるか”を考えることこそが、持続可能な民泊業界の鍵となる。