【貸別荘・セカンドハウスの現実】買う前に知っておきたい、収益減と支出増の「将来シミュレーション」

2025年現在、日本国内で民泊や貸別荘といった短期賃貸型宿泊ビジネスを営むオーナーの多くが、「想定外の出費」に直面しています。
その主な原因は、清掃費・リネンサプライ・電気ガス水道といった固定的な運営コストの上昇です。
しかもこの流れは、単なる一時的な現象ではなく、構造的・長期的なもの。つまり、「いずれ元に戻るだろう」と期待するのは極めて甘い見通しです。
本コラムでは、各種コストの上昇の背景と、これからの民泊投資で考慮すべきポイントを深堀りします。
貸別荘市場は「右肩上がり」ではない
数年前までは、地方でリゾート感のある戸建てを購入し、Airbnbや自社サイトで貸し出せば、それなりの稼働と収益が見込めました。特にコロナ禍後の「1棟貸し需要」や「人との接触を避けたい旅行ニーズ」には強くマッチしていたため、波に乗れた人もいたことでしょう。
しかし、現在は様子が変わりつつあります。
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新規参入が増加し、エリアによっては供給過多
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価格競争が激化し、単価が維持しにくい
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リスティング数が増えたことで、アルゴリズムに埋もれる物件も多発
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観光需要の波に左右されやすく、閑散期の赤字リスクが大きい
需要と供給のバランスで、売上は徐々に下がっていく傾向にあります。
清掃費用:人手不足と物価上昇が直撃
かつて、地方の貸別荘であれば清掃代は5,000円〜8,000円前後が相場だった時期もありました。
しかし現在では、
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地方でも 1回あたり12,000円〜15,000円
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都市部では 18,000円〜20,000円超えも珍しくない
という状況になっています。
これは、単なる業者側の「値上げ」ではなく、人件費と人材確保コストの高騰が主因です。
清掃スタッフの確保は全国的に困難になっており、地方でも最低賃金の上昇、社会保険料の負担などにより業者が値上げせざるを得なくなっているのです。
リネンサプライ:物流とエネルギーのダブルパンチ
宿泊業に欠かせない「リネン(シーツ・タオルなど)」もまた、見えにくいが確実にコストが上がっている分野です。
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燃料費や水道代など、リネン工場の運営コスト上昇
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トラック運転手の人材不足と「2024年問題」による物流費増
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円安や綿花価格の高騰による素材コスト上昇
これらが複合的に影響し、一回分のリネン交換コストが1,000円〜2,000円規模で上昇しているケースもあります。
光熱費:猛暑+構造的なエネルギー不安
特に2020年代に入ってからの猛暑傾向は、エアコン使用時間の延長をもたらし、電気代が跳ね上がっています。
加えて、
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ウクライナ戦争などによるエネルギー供給不安
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為替変動による輸入燃料の価格上昇
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再生可能エネルギー賦課金の増加
などを背景に、日本のエネルギー価格は今後も中長期的に“右肩上がり”になる可能性が極めて高いのです。
下がる見込みはあるのか?──答えは「ほぼない」
今後の見通しを冷静に考えましょう。
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人件費 → 高齢化・人口減少により「労働力そのものが足りない」
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エネルギー価格 → 国際政治・地政学リスクに強く左右される
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リネン供給 → 燃料と物流への依存が大きく、不安定
これらのどれも、今後価格が下がる方向には向いていません。
むしろ「あと5年でさらに1.2〜1.5倍になる」と見込んで経営シミュレーションする必要があります。
投資目的なら「宿泊体験の差別化」は避けて通れない
このような環境下で、長期的に利益を得たいのであれば、「価格」ではなく「体験価値」で選ばれる物件にする必要があります。
特に有効なのが、明確な差別化を図るための初期投資です。
● サウナの導入
近年の“整う”ブームで、貸別荘×サウナのニーズは高まっています。自宅では味わえない“外気浴”や“プライベートサウナ”体験は、宿泊単価の底上げにつながります。
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初期費用:約150万~300万円(設置環境により差あり)
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サウナがあることで、閑散期でも集客ができる強みになる
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SNSでの拡散力が強く、リピーターとファンを生みやすい
● プライベートプール
夏季に大きな差別化を生む設備。小型でも「家族で楽しめる」という訴求ができ、特にファミリー層に人気。
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初期費用:約300万~800万円(屋外・屋内で大きく異なる)
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メンテナンスや電気代はかかるが、一棟貸しと非常に相性が良い
こうした設備投資は確かに初期コストがかかりますが、長期運営を前提にすれば回収可能で、結果として価格競争からの脱却が可能になります。
「使わないときに貸す」の発想は、もはや古い?
よくある別荘購入の売り文句として、
「自分が使わない時は貸し出せばいいんです」
というトークがありますが、これは二兎を追う設計になりがちです。
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自分が使いたいタイミングはハイシーズン=最も稼げる時期
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他人に貸すと「モノが壊れる」「設備が消耗する」「自由にDIYできない」などの制約が増える
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利回りを最大化するには、ホテルに近い運用体制が必要になり、趣味の延長で済まなくなる
したがって、あくまで「セカンドハウス」目的で購入し、貸し出しは収支補填の手段と考えるくらいが現実的です。
結論:「夢の貸別荘経営」の前に、現実的な計画を
貸別荘投資は、確かに“うまくいけば”楽しいし、やりがいも大きいビジネスです。しかし、ランニングコストの上昇と、収益の下落圧力という現実から目を背けてはいけません。
むしろ、それでも「所有したい」と思える立地・建物・体験価値があるなら、購入すべきです。
そして、どうせ投資するなら、初期段階から差別化設備(サウナ・プール・焚き火など)を導入し、長期的な競争力を設計しておくことを強くおすすめします。
最後に
「貸すことが前提の別荘」は、買うときには夢が膨らみますが、5年後・10年後に差がつくのは「冷静に設計された物件」です。
理想と現実を、きちんと見つめた上でのセカンドハウス購入を。