Columnsコラム

贅沢か、負担か?――プール付き貸別荘という“夢”のリアルを見つめる

目次

    「プール付き」という響きの魅力

    「プール付き貸別荘」という言葉には、他にはない特別感があります。

    子どもたちの歓声、夜のライトアップ、プライベートな水辺時間――それはまさに非日常の象徴です。

    Instagramでも「#プール付きヴィラ」や「#貸別荘プール」で検索すれば、夢のような写真が並び、旅行先としても“映える”物件は大人気です。

    しかし、その裏側には運営者しか知らない現実が横たわっています。

    プール付き物件は、華やかな表面とは裏腹に、非常に手間もコストもかかる特殊な運営形態です。ここでは、そのメリットとデメリットを丁寧に見ていきましょう。

    【メリット編】選ばれる、シェアされる、差別化できる

    ■ 1. 集客力が圧倒的に強い

    プール付きというだけで、検索画面や写真一覧で目を引きます。

    夏のシーズンであれば、プール付きというだけで予約率が2〜3倍になることも珍しくありません

    • 家族旅行(子どもが喜ぶ)

    • グループ旅行(友人同士で水遊び)

    • カップル旅行(ロマンチックな雰囲気)

    • 記念日や誕生日のサプライズ旅行

    プールがあるというだけで、「目的地」ではなく「目的そのもの」になるのが大きな強みです。

    ■ 2. SNS映えするロケーションが作れる

    人は水辺に惹かれます。

    特にナイトプールや浮き輪、ドリンクといった演出は、映える写真を撮りたいゲストにとっては必須

    • 「#プール貸切」「#水着で乾杯」などで投稿されやすい

    • 映える写真がそのまま宣伝になる(無料広告効果)

    • TikTokやInstagramでバズることもある

    施設のブランディングにおいても、**“写真で語れる価値”**を持っているのは大きな武器です。

    ■ 3. 単価を上げやすい

    他の施設との差別化ができるため、宿泊単価を高く設定しても受け入れられやすい傾向があります。

    特に夏場やハイシーズンは、プール付きというだけで1泊数万円単位の差が生まれることもあります。

    【デメリット編】維持・安全・運営コストの“重み”

    ■ 1. 管理とメンテナンスが非常に大変

    プールは常に清潔でなければならない設備です。

    落ち葉・虫の除去、塩素濃度の管理、フィルターの清掃、ポンプの動作確認など、専門知識と時間、費用が求められます。

    • 毎日またはチェックイン前に清掃必須

    • 天候により汚れやごみが急増することも

    • フィルター・塩素・水道代・電気代の固定費がかかる

    • 一般の清掃業者では対応できない場合も

    また、シーズン終了後の水抜き・点検・冬季管理も地味ながら重要な仕事です。

    ■ 2. 安全面でのリスクが非常に高い

    最大のリスクは、水の事故です。

    とくに小さな子ども連れのゲストが多い夏場は、ほんの数秒の油断で重大な事故が発生する危険があります。

    • 子どもの転落・溺水

    • 酔った大人による無謀な飛び込み

    • 深さや段差を見落とした転倒

    • 滑りやすい床面によるけが

    こうした事態に備え、安全対策や免責の説明が不可欠になります。

    また、設備不備が原因で事故が起きた場合、損害賠償や営業停止の可能性もあるため、法的責任の意識も必要です。

    ■ 3. 季節依存が強く、オフシーズンは維持費だけかかる

    プールが活躍するのは、ほぼ6月〜9月の数ヶ月間のみ。

    それ以外の期間は、使われないにもかかわらず、**維持管理費だけが発生する“お荷物化”**するケースもあります。

    • 春・秋・冬は利用率が極端に低い

    • 使われない状態でも掃除や水の管理は必要

    • 利用しないことで水質悪化や設備劣化が早まる

    • ゲストから「使えないのに料金が高い」と感じられる可能性も

    導入前に必ず考えるべき3つのポイント

    ① 安全面をどこまで管理できるか?

    → 深さ、柵の有無、子ども向けの注意書き、夜間の施錠、ライフジャケット貸出など。

    ② 維持管理にかける時間とコストは想定済みか?

    → 専門業者に委託するのか、自分で対応するのか、費用対効果は見合うのか。

    ③ プールがない季節でも魅力ある宿として成り立つか?

    → 暖炉、ジャグジー、BBQ設備など「通年で価値を提供できる工夫」はあるか。


    結論:「夢」を現実にするには、覚悟と計画が必要

    プール付き貸別荘は、たしかに夢のような空間を提供してくれます。

    しかし、その夢には現実的な管理力・安全意識・コスト感覚が不可欠です。

    メリットだけに目を向けて導入すると、想像以上に手間とリスクに追われる結果にもなりかねません。

    “夢”を叶えつつ、現実に根ざした運営をする――

    そのバランスこそが、プール付き貸別荘の成功の鍵なのです。