Columnsコラム

リゾート地の貸別荘はなぜ清掃が難しいのか?

目次

    ――BBQ、プール、大人数…都市型民泊とは異なる運営上の現実と課題

    白浜、淡路島、高島市、そして沖縄。いずれも日本を代表する観光地であり、ここ数年で「貸別荘」「一棟貸し」の需要が急激に伸びているエリアです。静かで開放的な空間を家族やグループで独占できるという魅力は、ホテルにはない特別な体験を提供します。

    しかし、その裏で運営者が頭を抱える大きな問題のひとつが「清掃」です。都市型民泊とは異なる事情が、リゾート型物件の清掃業務を複雑で、かつ非常に時間と人手のかかるものにしています。

    アクティビティ設備の多さがもたらす“清掃範囲の拡張”

    都市型民泊が基本的に「寝る場所」として使われるのに対し、リゾート型貸別荘は「滞在そのものを楽しむ空間」として設計されています。

    そのため、設置されている設備や備品の種類が非常に多く、清掃すべきエリアが屋外にも広がるのが特徴です。

    ■ 清掃が必要な主なアクティビティ設備

    • BBQグリル・焚き火台

       → 網の焦げ、油汚れ、炭のカス、灰の処理。特に雨上がりなどは泥や葉っぱの清掃も必要。

    • 屋外プール・ジャグジー・足洗い場

       → 排水溝の詰まりチェック、タイルの滑り止め確認、虫や落ち葉の除去など。化学薬品の取り扱いに注意が必要な場合も。

    • ウッドデッキ・テラス・庭

       → 雑草、枯れ葉、動物の糞、スス汚れなどの対応。定期的な高圧洗浄が望ましい。

    • 大型冷蔵庫やグリル付きキッチン

       → 食材の持ち込み・調理が想定されるため、冷蔵庫内の食べ残し処理や油の飛び散り清掃が必須。

    都市型の1Kや1LDK民泊では見られない範囲の清掃が求められ、清掃員には「屋内外の動線を理解した、広範囲に及ぶチェック能力」が求められます。

    大人数宿泊対応=リネンと備品の大量処理

    貸別荘は多くが「8名以上の宿泊」を前提として設計されており、10~15名、あるいは20名近くが宿泊することも珍しくありません。

    その分、清掃で扱うアイテムの数は都市型民泊の比ではありません。

    ■ リネン類だけでもこれだけある

    • 掛け布団、敷き布団、マットレス、枕、毛布、シーツ、カバー類

    • バスタオル、フェイスタオル、キッチンタオル

    • 布団圧縮袋、収納ケースの整理整頓

    • 季節による追加アイテム(夏:冷感シーツ、冬:電気毛布など)

    多さは言うまでもありませんが、問題は「時間が足りない」など物理的な問題にも波及します。リネンを外注に出す体制が整っていないと、回転効率は非常に悪くなります。

    また、布団を使うスタイルの施設では、敷布団を一つずつ収納・展開する作業が大変な労力となります。収納も雑になるとゲストからクレームが入りやすく、清掃会社に高度な丁寧さと根気が求められます。

    “施設滞在目的”のゲスト=早すぎるチェックイン傾向

    都市型民泊では、観光や仕事で外出後、夜にチェックインするケースが多いため、午前10時チェックアウト → 午後4時チェックインでも十分な清掃時間が取れます。

    しかしリゾート型貸別荘は、**「施設そのものを楽しむために来ている」**ため、ゲストはチェックイン時間ピッタリ、あるいは前倒しでの到着を希望することが非常に多いです。

    ■ 実例

    • 午前10時チェックアウト、午後3時チェックイン予定 → 午後2時にすでに駐車場に到着しているゲストから「もう入ってもいいですか?」という連絡

    • 清掃中に勝手に入ってくるゲストがいる(クレームの火種になる)

    • BBQやプールの準備のため、昼には到着しておきたいというニーズ

    こうなると、清掃時間は実質4時間未満となり、10名以上が利用した施設をこの短時間で仕上げるには、1人や2人では到底無理があります。

    清掃会社の選定は、施設運営の生命線

    これらの課題を乗り越えるには、運営者が個人で清掃をこなすのでは限界があります。そこで鍵を握るのが「清掃会社の選定」です。

    ■ 選定のポイント

    • 複数人チームで対応できる体制があること(1件あたり2~3人必要な場合も)

    • 現地までの移動手段を自社で持っていること(山間部・離島では特に重要)

    • 急なスケジュール変更に柔軟に対応できること

    • 写真報告・チェックリストによる品質管理があること

    • 布団の上げ下ろし、BBQ設備の処理などに慣れていること

    小規模な清掃代行サービスではこれらを満たすことが難しく、繁忙期には清掃員の確保すら困難になる場合も。施設数が多いほど、安定したキャパシティを持つパートナーとの契約が必須となります。

    運営側ができる「清掃を楽にする」工夫とは?

    とはいえ、全てを清掃会社に任せてしまえばよいわけではありません。運営側も「清掃が回る設計」を意識することで、トラブルやコストを減らすことが可能です。

    ■ 清掃負担を減らす運営上の工夫

    • 布団ではなくベッドを導入する(ベッドメイクのほうが早い)

    • 洗濯機ではなくリネンサプライを活用する(大量処理可)

    • BBQエリアの掃除道具を完備し、ゲスト自身に簡易清掃してもらう

    • 使用済みBBQ網の“専用バケツ”を設けるなど処理の分かりやすさを重視

    • 設備ごとに「使用方法」と「清掃協力依頼」を掲示

    また、スタッフが短時間でチェックできるよう、備品の配置や収納もルール化することで効率化が可能になります。

    結論:リゾート型貸別荘の清掃は“戦略”で乗り切る

    都市型民泊では経験しないような設備・人数・時間管理の問題に直面するのがリゾート型貸別荘の運営です。

    運営者に求められるのは、単なる「部屋の貸し出し」ではなく、

    ・コンテンツの清掃性を考えた設計

    ・柔軟な清掃パートナーとの協業体制

    ・ゲストの滞在スタイルを先読みした時間設計

    といった、清掃も含めた総合的な運営戦略です。

    リゾート地の貸別荘が人気を集め続ける中で、こうした“見えない努力”が、結果的にレビュー評価、リピート率、稼働率といった形で、施設のブランド価値を支えていくのです。