民泊は本当に空き家対策になる?「空き家を民泊にすれば稼げる」が難しくなっている理由

「空き家を民泊として活用できませんか?」
このご相談は、私たちのところにもあります。
日本各地で空き家が増えるなか、使われていない住宅を宿泊施設として活用する。
建物を解体せずに再利用できる。
地域に宿泊者が訪れる。
所有者には収益が生まれる。
とても良い仕組みに見えます。
実際、民泊が空き家活用の一つの選択肢になるケースはあります。
私自身、それを否定するつもりはまったくありません。
ただ、10年以上民泊運営に携わってきた立場から見ると、最近は少し気になることがあります。
それは、
「空き家だから民泊にすればいい」という時代では、もうなくなってきている
ということです。
民泊が広がり始めた頃と比べて、宿泊施設そのもののレベルが大きく上がりました。
そして何より、
泊まるゲストの目も、かなり肥えています。
今回は、不動産としての「空き家」と、宿泊商品としての「民泊」の間にある、意外と大きな距離についてお話ししたいと思います。
「住める家」と「泊まりたい宿」は違います
空き家を見せていただいたとき、
「まだ十分使えますよ」
と言われることがあります。
確かに、
雨漏りもない。
電気も使える。
水道も出る。
お風呂も使える。
キッチンもある。
住宅として見れば、
「まだ住める」
のかもしれません。
でも、民泊として考えると、私たちは違う見方をします。
「お金を払って、ここに泊まりたいと思ってもらえるか」
です。
ここは似ているようで、まったく違います。
自宅なら多少古い設備でも使います。
実家なら昔ながらのお風呂でも、それほど気にならないかもしれません。
でも宿泊施設では、ゲストは宿泊料金を支払います。
そして予約サイトを開けば、
同じ価格帯の別の施設が、すぐ横に並んでいます。
つまり空き家を民泊にするということは、
使われていない家を再利用することではなく、その建物を「選ばれる宿泊商品」に変えること
なんです。
民泊の競争相手は、もう「他の空き家」ではありません
ここは以前とかなり変わったと感じています。
今、AirbnbやBooking.comなどを見ると、
デザイナーズ民泊。
新築の一棟貸し。
高級ヴィラ。
サウナ付き。
プール付き。
露天風呂付き。
絶景のテラス。
大型プロジェクター。
ホテルライクな寝室。
非常に魅力的な施設が増えました。
そしてゲストは、それらをスマートフォンの同じ画面で比較します。
空き家を改装した施設だからといって、
「空き家を活用してくれてありがとう」
という理由で予約してくださるわけではありません。
なかなかそこまで優しい市場ではありません(笑)。
写真を見て、
価格を見て、
立地を見て、
レビューを見て、
設備を見て、
その中から選ばれます。
つまり、
空き家民泊の競争相手は、近所の空き家ではなく、周辺にあるすべての宿泊施設
なのです。
ゲストの目は、確実に肥えています
これは実際に運営していて強く感じます。
民泊がまだ珍しかった頃は、
「ホテルではなく、一軒家に泊まれる」
こと自体が一つの体験でした。
キッチンがある。
リビングがある。
家族みんなで泊まれる。
それだけでもホテルとの差別化になりました。
でも現在は、ゲスト自身が何度も民泊を利用しています。
海外旅行でも民泊。
国内旅行でも一棟貸し。
前回はサウナ付きヴィラ。
その前はデザイナーズホテル。
いろいろな宿泊施設を経験しています。
当然、
比較する基準も上がります。
清潔感。
ベッドの質。
水回り。
照明。
家具。
家電。
Wi-Fi。
空調。
写真との一致。
チェックインの分かりやすさ。
アメニティ。
こうしたところまで普通に見られます。
だから、
「少し古いけれど、泊まるだけなら問題ありません」
では、商品として弱くなってきています。
ゲストは「泊まれるか」ではなく、「ここに泊まりたいか」で選んでいるからです。
「古い家」と「古民家」は同じではありません
ここは特にお伝えしたいところです。
「古い家なので、古民家民泊にしたい」
というお話を聞くことがあります。
でも、
築年数が古ければ、自動的に“古民家”という魅力が生まれるわけではありません。
古い柱。
梁。
建具。
庭。
土間。
地域らしい建築。
昔ながらの間取り。
その建物だからこそ感じられる歴史。
こうしたものをきちんと残しながら、
水回り。
空調。
寝具。
断熱。
照明。
Wi-Fi。
清潔感。
といった現代の宿泊者が求める快適性を整える。
そこで初めて、
「古さ」が宿泊価値になる
のだと思います。
単に設備が古い。
お風呂が古い。
キッチンが古い。
壁が傷んでいる。
家具が昔のまま。
これは残念ながら、
「趣のある古民家」とは別のお話です。
古ければ全部「味」になる。
……そこまで便利な調味料ではありません(笑)。
むしろ古民家民泊は難易度が高い
私は今、古民家を宿泊施設として成立させることは、以前より簡単ではなくなっていると感じています。
古い建物ならではの魅力を残したい。
でも、ゲストには快適に過ごしていただきたい。
この両立が必要だからです。
例えば、
昔の窓を残したい。
でも断熱性が低い。
梁を見せたい。
でも空調効率を考えなければならない。
昔ながらのお風呂を活かしたい。
でも宿泊者が求める清潔感や使いやすさも必要。
建具を残したい。
でも防音やプライバシーも考えなければならない。
さらに宿泊施設にするなら、
消防。
避難経路。
用途や許認可。
地域によっては条例。
こうした条件も確認する必要があります。
古いものを全部新しくするなら、ある意味簡単です。
難しいのは、
何を残して、何を変えるか。
ここです。
そして改修費をかけすぎると「空き家活用」の前提が変わる
空き家民泊でもう一つ重要なのが、改修費です。
例えば、
「使っていない実家を民泊にしよう」
と考えたとします。
物件はすでに所有している。
だから不動産取得費はほとんどかからない。
一見すると、かなり有利です。
ところが宿泊施設として確認していくと、
水回りを交換。
エアコンを追加。
壁・床を改修。
寝具を購入。
家具・家電を入れ替え。
消防設備を設置。
外構を補修。
写真撮影。
場合によっては間取りにも手を入れる。
気がつけば、かなりの投資額になることがあります。
ここで考えなければならないのが、
「この金額をかけて民泊にすることが、本当にこの不動産の最適な活用方法なのか」
です。
空き家を活用することが目的になってしまって、
収益性の検討が後になってはいけません。
1,000万円かけて改修したら、1,000万円分価値が上がる?
これもヴィラの設備と同じです。
例えば空き家に1,000万円かけて改修したとします。
とてもきれいになった。
お風呂も新品。
キッチンも新品。
家具も新品。
だからといって、
年間の宿泊売上が改修費に比例して増えるわけではありません。
宿泊料金には、その地域の市場があります。
周辺の宿泊需要。
観光資源。
アクセス。
競合施設。
宿泊人数。
季節性。
これらによって、ある程度「売れる価格帯」があります。
どれだけ内装にお金をかけても、
市場が1泊25,000円前後なら、
簡単に1泊80,000円にはできません。
ゲストは改修工事の請求書を見て予約するわけではありませんから(笑)。
だから空き家を民泊にするときほど、
工事を始める前に「この場所なら、いくらで何泊売れそうか」を考えること
が大切です。
空き家を先に買ってから「民泊できますか?」は少し怖い
不動産の相談で特に気になるのが、
物件を購入してから、民泊ができるか調べる
という順番です。
これはできれば逆にしたいところです。
購入前に、
法的に宿泊施設として使用できるのか。
必要な許認可は何か。
消防上の対応は可能か。
近隣環境はどうか。
駐車場は必要か。
清掃動線は確保できるか。
どれくらいの人数を受け入れられるか。
周辺の宿泊需要はあるか。
競合施設はいくらで販売しているか。
必要な改修費はいくらか。
そして、
その投資を回収できそうか。
ここまで確認してから購入する。
不動産として安いからといって、
宿泊事業として安い物件とは限りません。
500万円で買った空き家に2,000万円の改修が必要なら、
見るべき投資額は500万円だけではありません。
当たり前の話なのですが、物件価格が安いと、ついそこに目が行ってしまいます。
空き家民泊だから「安く泊まれる宿」にする必要もありません
一方で、私は空き家活用に悲観的なわけではありません。
むしろ、
建物によっては非常におもしろい宿泊商品になる
と思っています。
景色がいい。
庭が広い。
地域独特の建築が残っている。
大人数で泊まれる。
都市部では得られない体験がある。
建物そのものにストーリーがある。
こうした物件なら、
きちんと企画して再生することで、
一般的なホテルとは違う価値をつくることができます。
そして、
空き家だったから安く泊まってください
ではなく、
ここでしかできない体験だから、適正な価格をいただく。
そういう民泊の方が、長く続くのではないかと思います。
「古いものを残す」だけではなく「価値を残す」
古民家再生という言葉を聞くと、
昔のものをできるだけ残すイメージがあります。
もちろん、それも大切です。
でも宿泊事業として考えるなら、
何でも残せばいいわけではありません。
残す柱。
変える水回り。
残す建具。
入れ替える空調。
残す庭。
改善する照明。
その判断が必要です。
私は、
「古いものを残す」のではなく、「その建物の価値を残す」
という考え方の方が近いと思っています。
そのうえで、
ゲストが不便に感じるところは現代の基準に合わせる。
古民家民泊は、
古さと快適性のどちらかを選ぶ仕事ではなく、
両方を成立させる仕事
なのだと思います。
民泊は空き家対策になるのか
では最初の質問に戻ります。
民泊は、本当に空き家対策になるのでしょうか。
私は、
「なる物件もある。でも、すべての空き家が民泊に向いているわけではない」
と考えています。
空き家だから民泊にする。
ではなく、
この建物には宿泊商品としての魅力があるのか。
必要な改修はいくらか。
どのくらいのADRが期待できるのか。
どれくらいの稼働率を想定するのか。
運営費はいくらか。
将来の修繕費は。
そして、
投資したお金を回収できるのか。
ここまで見て初めて、
「民泊として再生する」という選択肢を検討できるのだと思います。
「壊すのがもったいない」と「民泊に向いている」は別の話です
思い入れのある実家。
長く地域に残ってきた建物。
立派な古民家。
「壊すのはもったいない」
そのお気持ちはよく分かります。
ただ、
もったいないから民泊にする
だけでは、事業として続かない可能性があります。
賃貸住宅にする。
売却する。
自宅として再利用する。
店舗にする。
地域施設として使う。
そして、宿泊施設にする。
空き家にはいろいろな活用方法があります。
民泊は、その中の一つです。
だから私たちは、
「空き家があります」=「民泊にしましょう」
とは考えません。
むしろ不動産と運営の両方を見るからこそ、
民泊にしない方がいい物件についても、そうお伝えできることが大切
だと思っています。
これからの空き家民泊に必要なのは「再利用」ではなく「再設計」
民泊がまだ珍しかった頃なら、
使われていない家をきれいにして貸し出す。
それだけでも一定の価値があったのかもしれません。
でも今は、
新築民泊。
デザイナーズ民泊。
高級貸別荘。
サウナ付きヴィラ。
プール付きヴィラ。
さまざまな宿泊施設と、同じ予約サイトの中で比較されます。
だからこれからの空き家活用では、
「泊まれる状態にする」だけでは足りない。
誰に泊まってほしいのか。
なぜ、この建物を選ぶのか。
どこを残すのか。
どこを変えるのか。
いくらで売るのか。
どう写真で伝えるのか。
どう運営するのか。
そして何年続けるのか。
そこまで考えて、
一つの宿泊商品として再設計する。
私は、それがこれからの空き家民泊には必要だと思っています。
空き家を民泊に変えることが目的ではありません。
誰も使わなくなった不動産に、もう一度「選ばれる理由」をつくる。
そこまでできたとき、
民泊は本当の意味で、空き家活用の一つの答えになるのではないでしょうか。
このコラムについて
本コラムは、民泊運営歴10年以上・宅地建物取引士資格を持つ管理部長・柳瀬が、これまでの実務経験をもとに執筆しています。
Airbnb・Booking.com等のOTA運用、価格調整や稼働率改善、住民・ゲスト・管理組合との調整、行政対応、是正指導、設備トラブルへの対応、そして思うようにいかなかった運営や撤退判断まで。現場責任者として、実際の宿泊事業に携わってきました。
また、宅地建物取引士として、民泊不動産・中古ヴィラ・貸別荘・空き家の購入前確認、収支、物件選び、許認可、開業準備、運営、収益改善、将来の売却まで、不動産と宿泊事業の両方から考えることを大切にしています。
私たちが大切にしているのは、不動産と運営は切り離さず考えることです。
空き家についても、
「民泊にできるか」
だけではなく、
「民泊にする価値があるか」。
必要な改修費はいくらか。
どれくらいの宿泊単価が期待できるか。
どれくらいの需要があるか。
運営費や修繕費を差し引いても事業として成立するか。
そして、その建物ならではの魅力を宿泊商品としてつくれるか。
購入前・改修前だからこそ、確認できることがあります。
「所有している空き家を民泊にできるか相談したい」
「古民家を宿泊施設として再生したい」
「空き家を購入して民泊事業を始めたい」
「購入予定の物件が宿泊事業として成立するか見てほしい」
「民泊向きの土地・中古物件を探したい」
そんなご相談もお受けしています。
ただし、私たちは何でも民泊にすることが空き家活用だとは考えていません。
宿泊施設として成立しにくいのであれば、購入前にそう判断することも大切です。
「買ってから困る」のではなく、
「あのとき、きちんと確認しておいてよかった」と思える判断を。
PROGRESS WORKSは、民泊・貸別荘・ヴィラの不動産と運営、その両方の視点からお手伝いしています。


