民泊は「誰でも運営できる」が落とし穴?|大阪で施設が増えた今、問われているのは「運営の質」です

大阪で、
民泊施設が増えています。
大阪市自身も2026年9月、
インバウンド需要を背景として、
「大阪市においても民泊施設が急増しています」
と案内しています。
特区民泊について見ると、
2025年10月末時点で、
大阪市内の認定施設は7,312施設に達していました。
その後、大阪市は2026年5月29日をもって特区民泊の新規受付を終了しています。
その理由について大阪市は、
急増するインバウンドの宿泊需要に一定の役割を果たしてきた一方、
施設の増加に伴って周辺住民とのトラブルや苦情が増加し、さまざまな課題が生じている
と説明しています。
民泊を10年以上運営してきた私も、
ここ数年の変化をかなり感じています。
そして最近、
もう一つ気になっていることがあります。
それは、
施設が増えた結果、民泊同士の競争も厳しくなり、運営コストを下げるために、運営会社への委託をやめて自主管理へ切り替えるケースがあることです。
これは大阪市が公表している統計ではなく、
あくまで私たちが実際のご相談や現場で見聞きしているケースです。
もちろん、
自主管理そのものが悪いわけではありません。
ご自身できちんと勉強し、
責任を持って運営されているオーナー様もいらっしゃいます。
問題は、
「予約サイトを触れること」と「宿泊施設を管理できること」が、同じだと思われやすいことです。
私は、
ここに現在の民泊が抱える一つの落とし穴があると思っています。
民泊が増えれば、すべての施設の売上が同じように伸びるわけではありません
インバウンドが増えている。
大阪へ来る旅行者も多い。
だから、
民泊を始めれば売れる。
そんな単純な話ではありません。
宿泊需要が増えても、
同時に宿泊施設が増えれば、
当然、
旅行者には選択肢が増えます。
同じエリア。
似た間取り。
似た定員。
似た設備。
似た価格。
そういう施設が増えれば、
予約を取るための競争は厳しくなります。
価格を下げる施設も出てきます。
すると、
以前と同じ稼働率でも、
利益が残りにくくなる場合があります。
そこで、
オーナー様が考えるのが、
「経費を下げられないか」
です。
これは、
事業者として当然の発想です。
そこで運営会社をやめて、自分で運営するという選択肢が出てきます
民泊運営会社へ支払う運営手数料は、
オーナー様から見れば経費です。
売上が十分に出ているときには、
それほど気にならなかった。
でも、
売上が下がる。
宿泊単価が下がる。
光熱費が上がる。
清掃費もかかる。
ローン返済もある。
利益が少なくなる。
そうなると、
運営手数料も大きく見えてきます。
そこで、
「予約管理くらいなら自分でできるのではないか」
と考える。
実際、
弊社にも、
自主管理へ切り替えたあと、
運営について相談に来られる方がいらっしゃいます。
でも、
ここで一度、
知っていただきたいことがあります。
民泊運営は「Airbnbの返信をする仕事」ではありません
民泊を外から見ると、
予約が入る。
メッセージを返す。
暗証番号を送る。
清掃会社へ連絡する。
それくらいに見えることがあります。
実際には、
もっと多くの仕事があります。
宿泊者情報の確認。
チェックイン管理。
本人確認。
清掃管理。
リネン管理。
備品管理。
設備トラブル。
鍵の紛失。
Wi-Fiトラブル。
騒音。
ゴミ。
喫煙。
無断駐車。
忘れ物。
近隣からの連絡。
OTAとの交渉。
返金要求。
レビュー。
行政への対応。
緊急時の現地対応。
そして、
これらは、
平日の午前10時から午後5時だけ起きるわけではありません。
宿泊施設ですから、
むしろ、
本業が終わったあとの時間帯に問題が起きることがあります。
「本業をしながら民泊運営」が難しい理由
例えば、
会社員のオーナー様が、
ご自身で民泊を運営しているとします。
平日の午後2時。
ゲストから、
「お湯が出ません」
と連絡が来る。
でも、
オーナー様は会議中です。
午後6時。
近隣の方から、
「宿泊者が私有地へ車を停めています」
と連絡が来る。
帰宅途中です。
午後11時。
騒音の連絡が入る。
翌朝は仕事です。
午前1時。
ゲストが、
「鍵が開きません」
と連絡してくる。
これが、
宿泊事業です。
毎日起きるわけではありません。
だからこそ、
「意外と自分でできる」
と思いやすい。
でも、
何か起きた日の対応が、民泊運営では一番重要です。
大阪市がいま見ているのも、まさに「そこ」です
大阪市は2026年3月、
特区民泊施設への営業実態調査と、
これまで寄せられた苦情を分析し、
重点的に監視する施設を抽出しました。
その数は、
2,817施設。
注目していただきたいのは、
大阪市が何を確認しているのかです。
電話対応が24時間体制になっていない。
駆けつけに10分を超える。
苦情への対応がメールやSNSによる注意喚起だけ。
苦情対応の記録を残していない。
苦情を申し出た方へ対応結果を報告していない。
こうした運営状況も、
重点監視対象を抽出する際の項目になっています。
つまり、
いま大阪市が問題として見ているのは、
単に、
「許可・認定を受けているか」だけではありません。
「実際にどう管理しているのか」
まで見られています。
民泊には許可・認定等が必要。でも「運営のプロ資格」があるわけではありません
ここは、
少し制度を整理しておきます。
大阪市で宿泊事業を行う場合、
旅館業法に基づく許可、
特区民泊の認定、
住宅宿泊事業法に基づく届出など、
該当する制度に沿った手続きが必要です。
つまり、
施設そのものは、
何の手続きもなく営業できるわけではありません。
一方で、
民泊の実際の日常運営については、
すべての施設について、
「民泊運営士」のような統一資格を持つ人だけが運営できる、
という仕組みではありません。
制度によって管理者や委託についてのルールは異なりますが、
少なくとも、
旅館業の施設だから、必ず専門の民泊運営会社へ委託しなければならない
というわけではありません。
オーナー様自身が運営するケースもあります。
ここに、
私は一つの難しさがあると思っています。
「できる」と「適切にできる」は違います
自分で運営できる。
それと、
適切に運営できる。
これは、
分けて考えた方がいいと思います。
予約メッセージを返せる。
料金を変更できる。
清掃会社へLINEできる。
これだけなら、
それほど難しくないかもしれません。
でも、
深夜の騒音苦情に対応できるでしょうか。
近隣の方から強いお叱りを受けたとき、
冷静に事実確認できるでしょうか。
ゲストがルールに従わない場合、
OTAと交渉できるでしょうか。
設備事故が起きた場合、
誰へ連絡すればいいでしょうか。
行政から確認が入った場合、
必要な記録を出せるでしょうか。
普段何も起きていない日の運営ではなく、問題が起きた日の運営。
ここに、
運営の経験が出ます。
自主管理が悪い、と言いたいわけではありません
ここは、
誤解していただきたくありません。
私は、
「個人運営だからダメ」
とは思っていません。
ご自身でしっかり勉強され、
近隣対応もされ、
24時間連絡できる体制を整え、
必要なときには現地対応でき、
行政のルールも理解されている。
そういうオーナー様なら、
自主管理という選択肢もあると思います。
反対に、
運営会社へ委託していても、
その会社が電話に出ない。
近隣対応をしない。
ゲストへ自動メッセージを送るだけ。
それなら、
委託している意味がありません。
だから、
問題は、
「個人か会社か」ではありません。
「責任を持って管理できる体制があるか」です。
ただ、「本業の片手間」でできるほど簡単ではありません
ここは、
運営会社としてお伝えしたいところです。
民泊は、
副業として所有することはできます。
でも、
宿泊者にとって、その施設は副業ではありません。
その日の宿です。
近隣住民の方にとっても、
オーナー様が本業中かどうかは関係ありません。
夜中に騒音が起きている。
私有地へ車が停まっている。
ゴミが散乱している。
そのとき、
「オーナーは明日の朝まで本業なので対応できません」
では、
困ってしまいます。
ゲストは帰ります。でも、近隣住民の方はそこに住み続けます
ここは、
何度でも書きたいと思います。
ゲストは、
数日後には帰ります。
でも、
近隣住民の方は、
そこに住み続けます。
民泊オーナー様自身も、
施設とは別の地域に住んでいることがあります。
そうすると、
実際に毎日、
民泊と隣り合わせで生活するのは、
近隣の方です。
だから、
民泊運営を考えるとき、
オーナー様の利益とゲストの満足だけでは足りません。
近隣住民の方が、
普通に生活できること。
これは、
宿泊事業を続けるための前提だと思っています。
運営費を削った結果、地域へコストを押しつけてはいけない
私は、
ここが今回一番伝えたいところです。
売上が下がった。
利益が減った。
だから、
運営コストを下げたい。
その判断自体は、
経営として理解できます。
でも、
運営会社への費用を削った結果、
24時間対応する人がいなくなる。
現地へ行く人がいなくなる。
近隣苦情への対応が遅れる。
ゲスト管理が十分にできなくなる。
そうなったとき、
削減されたコストの一部を、
近隣住民の方が負担することになってはいないでしょうか。
夜中の騒音を我慢する。
無断駐車へ対応する。
行政へ電話する。
管理者を探す。
これは、
本来、
近隣住民の方の仕事ではありません。
行政へ負担を移すことにもなります
そして、
もう一つあります。
運営側で解決できない問題が増えれば、
最終的には、
行政や保健所へ相談が入ります。
大阪市はすでに、
施設増加に伴う苦情の増加を受け、
迷惑民泊根絶チームを設置し、
監視指導を強化しています。
つまり、
運営体制が弱くなった結果、
その負担が、
住民の方だけではなく、
行政へ移る可能性もあります。
運営コストを削ること自体が悪いのではありません。
でも、
削った仕事が消えるわけではない。
誰かがやらなければいけません。
そこは、
オーナー様にも知っていただきたいと思っています。
利益が出なくなったら、運営会社を切る前に原因を見てほしい
民泊の利益が減った。
だから、
運営手数料を削る。
気持ちは分かります。
でも、
その前に、
一度数字を見てください。
利益が減った原因は、
本当に運営手数料でしょうか。
宿泊単価が下がっているのか。
稼働率が下がっているのか。
競合が増えたのか。
写真が古くなっているのか。
レビューが落ちているのか。
設備が競合より弱いのか。
OTAの販売方法に問題があるのか。
そもそもの購入価格が高すぎたのか。
借入が重すぎるのか。
運営会社をなくせば、
その分の経費は下がります。
でも、
売上まで下がれば、
意味がありません。
さらに、
近隣対応までできなくなれば、
もっと大きな問題になります。
「自分でやれば無料」ではありません
自主管理すると、
運営手数料はなくなるかもしれません。
でも、
自分の時間は使います。
深夜の連絡。
ゲスト対応。
清掃会社との調整。
料金調整。
OTA管理。
近隣対応。
トラブル処理。
これらに使う時間にも、
本来、
価値があります。
さらに、
本業へ影響が出るなら、
その影響も考える必要があります。
だから、
自主管理を検討するときは、
単純に、
「運営手数料がゼロになる」
だけで計算しない方がいいと思います。
これから運営会社に求められるものも変わると思います
もちろん、
これはオーナー様だけの問題ではありません。
私たち運営会社側も、
考えなければいけません。
ただ予約を管理する。
メッセージを返す。
清掃を手配する。
それだけで、
運営手数料をいただける時代ではなくなっていくと思います。
売上をつくる。
数字を説明する。
近隣対応をする。
行政ルールを理解する。
トラブルへ対応する。
オーナー様へ報告する。
そして、
「この会社へ任せているから、自分でやるより安心だ」
と思っていただける仕事をする。
運営会社にも、
それだけの価値を示す責任があります。
だから私は、民泊運営にも「質」が問われる時代になったと思っています
大阪では、
民泊施設が急増しました。
一方、
施設増加に伴い、
周辺住民とのトラブルや苦情も増えています。
これから必要なのは、
単純に施設数を増やすことではないと思います。
きちんと管理される施設を残すこと。
そして、
オーナー様にも、
運営会社にも、
「宿泊事業を運営する」という責任を、
もう一度考えること。
民泊は、
不動産を持って、
OTAへ掲載すれば終わりではありません。
予約が入ってからが、
運営です。
そして、
何か起きたときこそ、
本当の運営力が問われます。
「誰でも参入しやすい」と「誰でも簡単に運営できる」は別です
民泊は、
正しい許可・認定・届出等を行えば、
さまざまな方が宿泊事業へ参入できます。
それ自体は、
民泊の魅力の一つでもあると思います。
でも、
参入できることと、簡単に運営できることは別です。
ここを混同すると、
オーナー様自身も苦しくなります。
ゲストも困ります。
近隣住民の方も困ります。
そして、
行政の負担も増えます。
最終的には、
業界全体への規制強化にもつながります。
だからこそ、
これから民泊を始める方には、
物件の利回りや想定売上と同じくらい、
「誰が、どうやって運営するのか」
を考えてから始めていただきたいと思っています。
民泊は、不動産投資であると同時に「宿泊事業」です
ここを、
忘れてはいけないと思います。
不動産投資として見れば、
購入価格。
利回り。
ローン。
売却価格。
当然、
重要です。
でも、
民泊を始めた瞬間、
そこにはゲストが来ます。
そして、
その周囲には、
住民の方がいます。
だから、
民泊は、
不動産投資であると同時に、人を泊める事業です。
投資として数字を見ること。
宿泊事業として責任を持つこと。
その両方が必要です。
このコラムについて
本コラムは、民泊運営歴10年以上・宅地建物取引士資格を持つ管理部長・柳瀬が、これまでの実務経験をもとに執筆しています。
Airbnb・Booking.com等のOTA運用、価格調整、宿泊者情報管理、ゲスト対応、騒音・ゴミ・駐車・喫煙などの近隣トラブル、行政対応、許認可、開業準備、収益改善など、
実際の宿泊運営に携わってきました。
また宅地建物取引士として、
民泊不動産・中古ヴィラ・貸別荘の購入前確認、収支、物件選び、許認可、開業準備、運営、収益改善、将来の売却
までご相談いただいています。
私たちが一貫して大切にしているのは、
不動産と運営は切り離さず考えること。
民泊物件を購入するとき、
「許可が取れるか」
「いくら売れるか」
だけを見るのではなく、
「誰が運営するのか」
まで決めておく。
そして、
売上が少し下がったときにも、
適切な管理体制を維持できる事業計画にしておく。
ここまでが、
民泊不動産への投資だと思っています。
自主管理を否定するつもりはありません。
運営会社への委託が、
すべての方に正解だとも思っていません。
ただ、
どちらを選ぶにしても、
「問題が起きたとき、誰が責任を持って対応するのか」
だけは、
曖昧にしないでいただきたいと思います。
ゲストは帰ります。
オーナー様は、
別の場所で生活しているかもしれません。
でも、
近隣住民の方は、
その施設の隣で生活を続けます。
だから、
利益が厳しくなったときにも、
削ってはいけない運営があります。
民泊を長く続けるためにも、
オーナー様の投資を守るためにも、
そして、
地域の方が安心して暮らすためにも。
「安く運営すること」だけではなく、
「責任を持って運営できること」
を大切にしたいと思っています。
「買ってから困る」のではなく、
「あのとき、きちんと確認しておいてよかった」と思える判断を。
PROGRESS WORKSは、民泊・貸別荘・ヴィラの不動産と運営、その両方の視点から、長く続けられる宿泊事業を考えています。


